徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

其の六「ざざ虫」…(親父と歩いた日々)

2006-12-08 17:48:00 | 親父
 親父の釣り好きが遺伝したせいか…川を見ると何だかわくわくしてくる…。
釣り人が居たりすると…もうだめ…イメージの世界へ突入…。
 竿から手に伝わるあたりの感覚が…なぜか腹の辺りからもぞもぞと甦ってきて…思わず手に力が入る…。
何も握っていないのに…本当にそんな感じがするから不思議だ…。

 前にも書いたとおり自分は…自ら竿を買うわけでもなく…進んで何処の川へ行くわけでもなく…釣堀で満足しているような体たらくだが…それでも胸躍る思いは血の為せる業か…。

 渓流釣りの好きな親父は解禁日を越えると頻繁に川へ向かった…。
母の作った柔らかいお握りを持って…

 まだ若い頃はひとりで出かけたり…知人と連れ立って行ったりしていたが…子供が小学生くらいになるとひとりふたり…お供に連れて行くようになった…。
 自分がお供をしたのは長野県・岐阜県・愛知県の渓流で…日帰りもあれば…泊まりもあった。

 親父が前以て用意した餌は…イクラと栗虫…後は現地調達である。
川には其の川の魚が食べている虫が居るので…そんなに沢山の餌を用意する必要がないのだ。

 親父から教わった餌はカワゲラ…羽のない蜻蛉と言った形の幼虫で…川岸や川の中の石を転がして裏にへばりついているのを捕って餌にする…。
まだ…釣りを始めたばかりの頃…親父のために何匹も捕まえて餌箱に入れたのを覚えている…。

 自分はずっとカワゲラを取って餌にしていたが…或る時…全然…釣れなくて腐っていると…地元の人がトビゲラの幼虫の居るところを教えてくれた。

 川の中の石と石の間や石の裏に…砂利と自分の出した糸で作った巣の中に居る…。
カワゲラとは見た目も異なって…団子のようにぼこぼことなった細長い体ととがった頭…如何にも幼虫という感じ…。

 これがすごい!
一発であたりが来た…。 小さいけどアマゴ…。
以来…トビゲラを探すようになった。

 釣り針に付ける時にちょっとコツがあって…くるんと半円っぽくカーブを付ける。
自然界ではこういう形で居ることが多いそうで…真っ直ぐに伸ばすと釣り難いんだそうだ…。

有難う…地元のお兄さん!

 ところが…親父はこの虫があまり気に入らなかったらしく…コガネグモやオニグモを使って大物釣り…。
まずまずの釣果でご満悦だった…。

 トビゲラの幼虫は…ざざむしと呼ばれて食用にもなるのだということを最近知った…。
ざざむしの佃煮は信州…伊那地方の特産品だそうで…どうやら美味しいらしい…。
この頃…なかなか獲れないのだそうだ…。

 某ネット市場で超レアもの…というのを見かけたが…35グラム二瓶…四千なんぼで売っていた…。
う~ん…ただの味見のために買うにはちょっと勿体無いお値段だよなぁ…。
この手のものは好き嫌いがあるから…どうせひとりで食べることになるんだし…。

 親父が今も生きていたら…同じ悪食同士…試しに買ってみるんだけど…。
珍しいものが手に入ったで…なんて…話もできるんだけどな…。

そこが…少し…寂しいね…。