徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

其の七「ゴマダラカミキリ」…(親父と歩いた日々)

2006-12-09 18:03:18 | 親父
 夏の終わりの昼下がり…庭から家へ上がろうとしてふと足元を見ると…土留めの上に触覚の細長い黒地に白斑の虫が転がっていた…。

ゴマダラカミキリだ…。 

 この虫は蜜柑などの木を食い荒らす害虫なのだが…ただの昆虫として眺めている分にはとても魅力的な虫だ…。
取り立てて珍しい虫というわけではなく…日本全国何処にでも居るらしいが…。

 特に気に入っているのは…先の方ですっと弧を描く触角…そして星空のような模様である…。 

 何処から来たんだろう…。
うちにはこいつが気に入るような果樹系の木はないんだけどなぁ…。

 捕まえても飼う気はないし…殺すのも可哀想だし…そのままにしておいた…。
子供に見せようかな…とも思ったが…この種のカミキリムシは前にも見たことがあるから…それほど喜ばないだろう…。
特に…虫嫌いの方は…。 


そう言えば…。

 記憶がかなりおぼろげだから…随分小さい頃のことだと思うのだが…道風公園…というところへ連れて行って貰ったことがある…。

 千年ほど前に…愛知県の春日井市に生誕したと言われる書道家…小野道風を記念した公園である。
藤原佐理…藤原行成…と並んで三蹟と称えられる書の神さまのような人である。
和様の書風を生み出したことでも知られている…。 

 何故…そこへ行くことになったのかはまるっきり覚えていないのだが…親父のことだから…別段これという理由はなかったのかもしれない…。

 今では随分と立派で綺麗な公園になっているが…当時は…何ということもない見落としそうなほど小さな公園だった。
 記念館が建てられたのが昭和の後期だから…公園が整備されたのもその頃か…。
ここがあの公園か…と見違えるほどだ…。

 花札の絵にもなっている蛙と柳の伝説のせいか…公園には小さな池が作ってあった…。
その池の傍で…自分は生まれて初めてゴマダラカミキリを見つけたのだ…。

 黒い身体に白い星…なんて綺麗な虫なんだろう…。
撓む釣竿のような触角…なんて素敵なんだろう…。 

 親父がそれを捕まえて…そのあたりに落ちていた木の葉を一枚手に取った。
木の葉をカミキリムシに近づけると…何とチョキチョキ切るではないか…。

まるで…オカンのチョキチョキバサミのようだ…。 

面白いだろ…と言わんばかりに親父はニカニカ笑っていた…。

カミキリムシ…カッコいい…。
けど…噛み付かれたら痛いな…きっと…。

何度もチョキチョキさせてから…逃がしてやった…。

 緑が減少し…昆虫たちが町の中から消えかかっていた頃で…自分の住んでいる町では最早…見ることのできない虫だった…。 


 あれからどれくらい時が経つのか…。
この町では時折…もう何年も前に忘れていたような虫を見かける…。
決していい環境とは言えないが…虫たちもそれなりに適応したんだろう…。

 ああ…そうか…お隣に確か…蜜柑の木があったな…。
あのカミキリはそこから来たのかも知れない…。 
町に残されたほんのちっぽけなオアシスを見つけて…ゴマダラくんも一生懸命生きているんだなぁ…。

がんばれ…昆虫たち…! 

頑張って…欲しいんだ…けど…蜜柑荒らしの害虫そのままにしちゃって…お隣さんにはちょっとばかし…悪かったか…なぁ…?