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自律神経失調症の漢方治療 ⑥

2007-01-24 16:25:58 | うんちく・小ネタ

痛瀉用方(つうしゃようほう):精神的ストレスによる急な腹痛と下痢に

痛瀉(つうしゃ)とは?

急激な情緒変動、たとえば怒り、心配事、緊張などがあると腹痛をともなう下痢が生じ、排便しなければ腹痛が治まらないタイプの下痢を指します。下痢を中国漢方医学では「泄瀉(せっしゃ)」といい、痛みを伴うので「痛瀉(つうしゃ)」といいます。

このタイプは平素からよく、胸の脇が張ったような感じがあり、げっぷも多く、食欲は一般的に落ちているタイプの人に多く見られます。心配事の種をいつも抱えていて、その憂慮が特にひどくなった時や、平素「むかつく」対象にさらに怒りを強く感じた時、或いは精神的に緊張すると、お腹が痛み、下痢になります。下利便が出るとある程度腹痛が治まります。

患者さんは胃腸科を受診していろいろ検査をした後で、「慢性胃腸炎」「過敏性大腸」あるいは「自律神経失調症」などの診断を受けることが多いのが実情です。

西洋医学的には特に異常は認められません。精神安定剤が有効な場合があります。中国漢方医学では何百年も前からこの種の下痢に対する効果的な治療が開発されています。

中国医学の痛瀉に対する考え方

肝気乗脾(がんきじょうひ)とは?

精神的なストレスが一時的に亢進すると、肝気がのびのびと体中にひろがることが妨げられて肝失条達(かんしつじょうたつ)という状況になります。鬱滞した肝気が脾(胃腸)に横逆し、脾の水湿や栄養の正常な吸収と運搬が損なわれると、(これを脾失健運といいます)腹痛、泄瀉が発生します。肝の疎泄作用(そせつさよう)が失われる肝失疏泄(がんしつそせつ)のために胸の脇が張ったような感じや、げっぷ、食欲不振が現れます。舌色は淡紅であり、脈は一般に弦脈(げんみゃく)を示します。このように肝気が胃腸の機能を障害することを漢方専門用語で肝気乗脾(がんきじょうひ)といいます。

治療法は抑肝扶脾(よくがんふひ)といい、肝気の流れを良くする疏肝理気(そがんりき)法と胃腸を丈夫にして下痢を止める健脾止瀉(けんぴししゃ)です。

痛瀉要方(つうしゃようほう)と四逆散(しぎゃくさん)合方

  痛瀉要方

白朮(びゃくじゅつ)白芍(びゃくしゃく)陳皮(ちんぴ)防風(ぼうふう)が組成です。それぞれ効能は健脾燥湿(けんぴそうしつ)、養血柔肝(ようけつじゅうがん)理気燥湿(りきそうしつ)醒脾和胃(せいひわい)昇清止瀉(しょうせいししゃ)であり、痛瀉要方は胃腸を丈夫にして下痢を止めると考えられます。

  四逆散

柴胡(さいこ)枳壳(きこく)炙甘草(しゃかんぞう)白朮(びゃくじゅつ)が組成です。

精神的なストレスによる肝気の鬱滞を取り除く疏肝理気(そがんりき)の作用があります。

二方を合方することによって、白芍と甘草が組み合わされ、芍薬甘草湯も含むことになり、胃腸の痛みの原因である平滑筋の収縮を緩和します。

2007_124_007

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防風(ぼうふう)(風解表 湿止痛 昇清止瀉)

風解表 湿止痛の効能は感冒、慢性関節リュウマチに有効である。性質は微温で長期服用しても「燥」の副作用が出ないために、中国では「風薬の中の潤剤」と称される。昇清止瀉作用は感冒性の下痢、肝気乗脾(木乗土)の痛瀉に有効であり、下痢の流れに逆らって舟を挽く「逆流挽舟(ぎゃくりゅうばんしゅう)」の効と称される。

   続く、、


自律神経失調症の漢方治療 ⑤

2007-01-23 12:31:28 | うんちく・小ネタ

柴胡疏肝散(さいこそがんさん) ストレス性肝気鬱結の治療

ストレスは万病の源です。「生きることはストレスを積み重ねる」と断言しても過言ではないでしょう。中国漢方医学では何千年にも渡ってストレスが生命体に与える影響を研究してきました。「したいことが出来ない」「やりたくないことをしなくてはならない」「見たくないものを見なくてはならない」「言いたくないことを言わなくてはならない」、、例を挙げればきりがありません。

中国漢方の世界には郁症(鬱症 うつしょう)という概念があります。西洋医学でいう鬱病(うつびょう)も含む広い概念です。

   郁症(うつしょう)とは?

郁証は精神的なストレスが原因となり、気の流れが悪くなることによる憂鬱(ゆううつ)、精神不安定、胸肋脹痛(わき腹の痛み)、或いは、怒り易い泣き易いなどの情緒不安定、及び咽喉に異物が詰まるように感じる梅核気(ばいかくき)、不眠などの各種の複雑な症状を呈する病症です。

   西洋医学の病名との関係

 ノイローゼ、神経衰弱症、ヒステリー、更年期症候群などの治療には、郁症の治療が役に立ちます。

    中国医学の考え方

生体が精神的なストレスを受けると、特に心、脾、肝に影響が現れます。このうち特に郁症と関係するのは肝気の流れの停滞です。これを気郁(きうつ)あるいは肝気郁結(がんきうっけつ)といいます。気郁からの病理産物として火 痰 湿 食滞 淤血が生じ、それぞれ郁症の病型(タイプ)を形成すると中国医学は考えます。

    肝気鬱結(がんきうっけつ)の症状と治療

気分がさえない、うつ傾向がある、情緒が不安定である、溜め息がよく出る、遊赱性の固定しない痛みがわき腹にある(病院で検査をしても痛みの原因がわからない)、上腹部の、痞えたような不快感がある、げっぷがよく出る、腹が脹る、食欲が減退している、時々吐き気や嘔吐をする、すっきりとした排便感が無い(病院で検査しても原因が不明である)、生理不順があるなどの症状があります。消化器内科、婦人科を受診して、血液検査、胃カメラ、ホルモン検査などをして、自律神経失調症という診断をうけることが多いようです。舌苔は薄膩、脈は弦であることが多いのですが、西洋医学の病院では舌や脈に注意を払うことはありません。

    肝気鬱結の症状に対する中国医学の考え方

この部分は将来漢方医を目指す方へ紹介する専門的な分野ですので、一般の患者さんには難解です。一部ご紹介します。

「情志失調、肝失条達のため、精神抑鬱、情緒不安をみる。厥陰肝経が少腹を経し、胃を挟んで胸肋に分布するため、肝気鬱滞、気機不暢、気滞血淤、肝絡失和により、腹脹、胸悶、肋痛、生理不順をみる。肝気犯胃、胃失和降のため、腹部悶、げっぷ、食欲不振、嘔吐をみる。肝気乗脾のため、腹脹、大便異常をみる。舌苔が薄膩、脈が弦は肝胃不和の証候である。」 一般人には難解です。

    

    柴胡疏肝散(さいこそがんさん)明代 景岳全書

柴胡 香附子 芎  陳皮 白芍 炙甘草 が組成です。

ブルーは涼薬、グリーンは平薬 赤は温薬です。

効能は疏肝解郁(そがんかいうつ)といい、郁滞した肝気の流れを良くする方剤です。

四逆散(しぎゃくさん)(柴胡 枳実 白芍 炙甘草)から発展した方剤です。肝気の流れを良くする四逆散の枳実を同様の作用をもつ枳壳 に変えています。四逆散には芍薬甘草湯の白芍と炙甘草の組合わせも含まれています。平滑筋の緊張収縮に伴う痛みを除く作用があります。柴胡、枳殻、香附子で疏肝行気解郁に働き、川、芍薬、甘草で活血化止痛の効能が増強されます。郁金(うこん)、青皮を加え、解郁の強化を行うことも可能です。ゲップがひどい場合には旋覆花(せんぷくか) 代赭石(たいしゃせき)を加えると効果的です。

柴胡(さいこ)は肝陰を損なうと考える学派が中国には存在します。この学派を柴胡傷陰派といいますが、白芍(酸味がある)と炙甘草(甘味がある)の組み合わせは酸甘化陰(さんかんかいん)といい肝陰を補うとする考えがあり、柴胡の傷陰を間接的に防止していると説く漢方医が存在します。

香附子(こうぶし)は婦人科の要薬(ようやく)とされ、理気作用にすぐれ各種の生理痛などに有効な生薬です。

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柴胡(さいこ)(和解退熱 疏肝解郁 昇挙陽気)

胆肝 三焦 心包が帰経。中国では掌握了柴胡走遍天下(柴胡を使いこなせれば天下をとる名医となれる)の言葉がある。疏肝理気作用は南柴胡(軟柴胡)春柴胡が優れ、解熱退熱作用は北柴胡、(秋柴胡)が優れる。日本人に馴染み深い方剤では逍遥散(しょうようさん)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、小柴胡湯(しょうさいことう)などに処方されている。

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2007_123_008

香附子(こうぶし)(疏肝理気解郁 調経止痛)

肝 三焦に作用。中国では肝気鬱結 婦人科の要薬とされ、平静なので長期投与が可能であり、理気薬でありながら「血分」にも入いることが出来るとみなされ、重用されている。

    続く、、


自律神経失調症の漢方治療 ④

2007-01-21 17:34:19 | うんちく・小ネタ

異常発汗と桂枝湯(けいしとう) 甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)加減

汗が異常にでる、止まらない

などの覚醒時の発汗を「自汗」といい、睡眠中の異常発汗を「盗汗」と中国医学ではいいます。このうち、明らかな基礎疾患、たとえば結核病、ショック、膠原病、バセドウ氏病、一時性低血糖症、一部の伝染病などが無い自汗、盗汗などは「自律神経失調症」の診断を受ける場合が多いのが現実です。

異常な自汗、盗汗(寝汗)は中国医学では、人体の陰陽偏盛、偏虚、理不固のために汗液が外泄するものととらえます。

自汗の多くは気虚不固に属します。

盗汗の多くは陰虚内熱に属します。

実証 虚症の観点からは、肝火、湿熱によるものは実症に属します。病程が長い場合は気陰両虚、陰陽両虚及び虚実混雑の証が見られます。益気固表、調和営衛、滋陰降火、清化湿熱などが主要な漢方治療原則です。弁証した上で、適宜に固渋斂汗の薬を加え、治療効果を向上させることができます。

自汗(じかん) 寒気などを伴う場合

 異常に発汗し、寒気や、全身のだるさやうづき、微熱や寒気を交互に繰り返したりします。しばしば、不眠症の人が情緒不安定時に汗を大量にかきます。舌苔は薄白、脈は緩である場合が多いようです。これらを漢方用語では栄衛不和といい、営気は汗の元になる血をつくる気が営気であり、体表の理(そうり)(毛穴)を固め外邪から生体を守るのが衛気です。この営気と衛気のバランスが崩れた状態です。

調和営衛を治療原則とします。

桂枝湯(けいしとう)漢代 「傷寒論」加味

桂枝 白芍 生姜 大棗 炙甘草が構成薬です。

桂枝で解肌発表、芍薬で和営斂陰、二生薬の組合わせで、調和営衛、理を丈夫にします。生姜、大棗、甘草で和中の効能を求める。

発汗が多い場合や不眠や動悸がある場合には、竜骨 牡蛎(ぼれい) 茯神を加え、鎮静安神、固渋斂汗の効能を求めます。

気虚症が明らかな場合には、黄耆を加え、益気固表を期待します。

体が重く、舌苔が膩(厚い)の場合には、内湿の関与を疑い、防風、白朮を加え、祛風化湿止汗を期待します。

陽虚の者には附子を加え、温陽斂汗を行います。

半身、或いは局部に汗が出る者には甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)を併用し、甘潤緩急を期します。

甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)漢代「金匱要略」

炙甘草 小麦 大棗の組成です。

金匱要略には「婦人の臓躁、しばしば悲傷し哭せんと欲し、象は神霊のなすところのごとく、しばしば欠伸す、甘麦大棗湯これを主る」とあります。黄帝内経には「心病めば麦を食うべし」「肝急に苦しめば、急ぎ甘を食し、以って急を緩む」とあります。心の陰(血)不足による心神不寧(ぼんやり、悲哀感、よく泣く、不眠、欠伸、異常行動)に効果があります。

経験的に桂枝湯と甘麦大棗湯の組み合わせに竜骨や牡蠣(ぼれい)を加味することによって、異常なコントロール不能な自汗に有効であると中国医学は説いています。

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2007_121_001

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牡蠣(ぼれい):重鎮安神 益陰潜陽 軟堅散結 制酸効果 収斂固脱

イタボガキの貝ガラ(上)煎じ薬用製品(下)

高血圧症 肝硬変症 脾腫症 胃酸過多症 自汗盗汗 過多月経 帯下病など適応症が広い。

異常発汗には牡蠣散 柏子仁丸、遺精滑精などの精液漏出には金鎖固精丸、

過多月経や帯下病には牡蠣丸 清帯湯などが有名。

続く、、


自律神経失調症の漢方治療 ③

2007-01-19 20:25:41 | うんちく・小ネタ

原因不明の動悸と安神定志丸(あんじんじょうしがん)

動悸を中国漢方医学では「心悸(しんき)」と言います。原因はいろいろありますが、自律神経失調症と関係する心悸は、同時に不眠症、健忘症、眩暈、頭痛、寝汗、自汗などの異常発汗、鬱症(うつしょう)の合併症としても現れる場合があります。

心悸(しんき)の定義

心悸は、動悸とともに不安を自覚し、甚だしい場合はそれらを自分で制御(コントロール)できない病症です。胸苦しい、不眠、健忘、目眩、耳鳴りなどの臨床症状を伴うことがあります。心悸は一過性の驚悸(きょうき)と長時間にわたって続く怔忡 (せいちゅう)に分けられます。各種の器質性(心筋、弁膜などの異常を指す)は心悸の原因となりますが自律神経失調症とは関係がありません。関係するものは電気的な興奮異常などを指す機能性心臓疾患です。

症例から

A子さんは41歳、結婚後10年目ぐらいから、特に夜中に動悸を覚え、不安感にさいなまれ2度ほど救急車で病院へ行ったことがありました。診断は特発性心房性頻拍症で、そのつどプロカインアミドの注射をしてもらい発作は30分程度でおさまります。エコウ検査、24時間心電図検査でとくに心臓の気質的な病変は無く、血液検査も正常とのこと。生来気の小さい性格であったのですが、発作が起こる前に、ご主人の愛人問題で、夜中に愛人の知人からの電話が連日あったそうです。最近では不眠気味でした。診察したところまだ胃腸症状や生理不順という裏証(りしょう)は無く、病はまだ初期の状態でした。安神定志丸(あんじんじょうしがん)の服用にて、それまで飲んでいたマイナートランキライザー、少量のベータブロッカーも服用しないですむようになりました。

安神定志丸(あんじんじょうしがん)清代「医学心悟」

琥珀(こはく)竜歯(りゅうし)朱砂(しゅしゃ)茯神(ぶくしん)菖蒲(しょうぶ)遠志(おんじ)人参が元方の組成です。グリーンは平薬、青は涼薬、赤は温薬です。

古くは朱砂(天然辰砂 主成分は硫化水銀HgS)なども配合されましたが、水銀中毒の恐れから現代では天然磁石(じしゃく)(天然磁鉄鉱 主成分は四酸化三鉄Fe3O4)や黄連などを清心安神の目的で使用されます。人参の抗ストレス作用、抗疲労作用は古くから中国では知られていたようです。

菖蒲は化痰開竅として意識障害や、化湿開胃として痰濁内阻(ないそ)の食欲不振に、さらに本処方では醒神健脳として心神不寧に対して効果があります。

重鎮安神剤とは?

安神薬には、現代用語でいう「躁(そう)」や「のぼせるような心神不安」を指す陽気躁動の実証に用いられる鉱石類 貝ガラ類があります。これらを重鎮安神剤といいます。一方、植物薬は養心、補益肝血、補心脾に働き、養心安神薬といい、虚症に使用されます。実際の臨床では虚実挟雑の症例が多いために併用される場合が多いといえます。

重鎮安神薬には、竜骨 竜歯 牡蠣(ぼれい) 磁石 琥珀 朱砂 真珠などがあります。

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琥珀(こはく)(重鎮安神 行血散淤 利水通淋)

本草綱目彩色薬図2003年版より)

琥珀と茯神は「松」の気が結したもので、心気怔忡 に効果があるとされます。中国では宝石用以外の薬用琥珀砕片が市販されています。膀胱炎の湿熱にも効果があります。

2007_119_006 

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竜歯(りゅうし)(重鎮安神)

古代の哺乳動物の化石で心神不寧の心悸 煩躁 不眠に効果があります。

竜骨で代用する場合が殆どです。

2007_119_008

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竜骨(りゅうこつ)

(重鎮安神 平肝潜陽 収斂止汗 収斂止瀉 収? 遺精 生肌斂瘡)

古代の大型哺乳動物の骨の化石で、心神不寧の心悸 健忘 不眠 驚きやすい 多夢などに茯神 遠志 酸棗仁などと共に使用されます。収斂止汗 収斂止瀉 収? 遺精の作用は総称して「収斂固脱」といい、異常発汗、遺精、遺尿、慢性下痢、月経過多に使用されます。竜骨と共に牡蠣(ぼれい)(イタボガキの貝殻)が日本では多用されます。

      続く、、


自律神経失調症の漢方治療 ②

2007-01-18 16:50:18 | うんちく・小ネタ

帰脾湯(きひとう)と漢方トランキライザー 

心神が犯され、脾(胃腸)が障害を受け、生理不順が起こるタイプ

心脾両虚(しんぴりょうきょ)とは?

中国漢方医学では心は神を蔵し、脾は気血生化の源、思を主り、血が血管外へ漏れるのを防ぐ統血作用をもつとされます。

過剰な精神的刺激によってまず心神が犯され、思慮過度(くよくよ思い悩む)や過労により心脾が傷害されると、脾気虚により食欲不振、倦怠感、の張満、下痢などが出現し、生化の源です脾虚により、気血不足となり、心血不足になる。心血が消耗すれば、心神が不安定になり、驚悸(物事に驚きやすく動悸がする)心悸怔 忡 (持続性の動悸)、不眠、多夢、健忘、不安が生じる。これらは中国医学で心神不寧(しんしんふねい)といわれます。

気血不足のために、顔色は萎黄(くすんだ黄色)で無華(艶がない)です。舌質は淡、苔は一般に薄く、脈は細です。発熱を起こすこともあります。気虚発熱の病理は脾気虚(ひききょ)が生じると、その結果、津液(しんえき)(体液と考えていいでしょう)が生成不足になり、陽気(ようき)を制御する陰(いん)に属する津液の不足によって、陽気が外表に広がって発熱をきたすとする説と、脾気が弱ると清陽不升(せいようふしょう)といい、陽気が上昇できなくなり、郁滞(うったい)する結果、やがては発熱をきたすという説が有力です。

 

 脾気虚弱になると、統血作用が損なわれ、皮下出血、血便、吐血などの出血傾向が生じます。月経を主る衝脈でも同じような出血傾向が生じ、不正性器出血、過多月経、月経先期(月経周期の短縮)、経期延長などが起こります。血虚のために生理血は淡色で希薄です。脾虚による水湿の運化が生じると、内湿や痰のような津液の病理産物が生じやすくなり、湿濁は帯下の原因になる。このように女性にとって面倒な様々な症状を呈します。

帰脾湯(きひとう)宋代「済生方」明代「校中婦人良方」の組成

茯神 酸棗仁 遠志 竜眼肉 白朮 黄耆 人参 木香 当帰 炙甘草

赤は温薬 緑は平薬です。元法では大棗 生姜と水煎服用します。

全体として「温」の性質を持つ方剤です。

茯神 酸棗仁 遠志の三生薬が養心安神剤です。遠志は心腎を交通させ心神を安定させる働きの定志寧神作用があります。

甘温の白朮 黄耆 人参 大棗により益気健脾し、当帰で肝血を養い心血を生じさせ、甘草は諸薬を調和すると共に健脾に働きます。木香は益気補血剤の滋?を防止し、理気醒脾に働きます。竜眼肉には補気作用と補血作用があり、帰経は心と脾です。補心作用は不眠症に対して養心安神に働き、補脾作用は消化不良、軟便などの脾気虚に用いられます。

帰脾湯の名前の意味

神智思意は火土合徳という考えがあります。心は神を蔵し、思を用し、脾は智を蔵し、意を出(いず)るとする考えです。五行学説では心は火、脾は土で、心を母とすれば脾は子であり、母病及子、子病及母の関係にあります。心神が犯されれば脾にも影響が生じ、脾が障害を受ければ心神も不安定になるのです。大原則として、脾は後天の元、気血生化の元により、心神不寧をきたす心血不足などは、肝血不足が原因であり、その基本的な病理は脾虚による気血生化の低下に帰すという考えです。

加味帰脾湯(かみきひとう)とは?

帰脾湯に疏肝理気剤の柴胡(さいこ)と三焦の清熱剤です山梔子(さんしし)を加味したもので、日本のエキス剤には帰脾湯が無く、加味帰脾湯のみです。

七情内傷はすべての臓腑の気機失調を起こし、気は血の帥(すい)、血は気の母(気は血を生み、巡らせ、血は気を養う)ですから気血の動きが乱れる。

中国医学には「鬱即気滞、気滞久必化熱」(鬱は気滞を起こし、気滞が長引けば必ず火と化す)の考えがあります。

 心脾両虚の帰脾湯証に肝鬱(肝郁)化火の証:口苦、怒りっぽい、いらいら、吐血、鼻出血、眼球結膜の充血、胸脇部の痛みなどがある場合に用いられる。柴胡 山梔子は涼寒薬ですから、冷えを伴う場合には、帰脾湯証がある程度そろっていても不適です。

帰脾湯証を西洋薬で治療するとなれば、、

心神不寧の驚悸(物事に驚きやすく動悸がする)心気怔 忡 (持続性の動悸)、不安などにはマイナートランキライザー、不眠には睡眠導入剤や睡眠維持剤、食欲不振、の張満、下痢などの消化器症状には胃炎薬、胃腸運動改善剤、倦怠感には総合ビタミン剤などになるのが常です。うつ病に対する抗うつ剤も考慮されます。気虚発熱に対しては解熱剤の頓服、脾不統血による皮下出血、血便、吐血などの出血傾向には血管系の止血剤、不正性器出血、過多月経、月経先期(月経周期の短縮)、経期延長などは婦人科での増血剤やホルモン治療になることが多いでしょう。

患者さんは一般内科、心療内科、神経内科、婦人科と多くの科を併診することになります。各科の横の連携がなされていないと治療費、治療期間ともに耐えられないものになる恐れがあります。

帰脾湯中に含まれる生薬

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人参大補元気 補脾益肺 生津止渇 安神増智)

抗疲労作用、疲労回復作用、抗ストレス作用に優れる

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黄耆(おうぎ):補気昇陽 益衛固表 托毒生肌 利水消腫)

人参と共に優れた補気作用を持ち、生血、補気摂血に働き出血傾向を改善する

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2007_118_006

当帰(とうき)(補血止痛、活血止痛、潤腸)

補血養血の要薬とされ、肝血を補い以って心血を補し心神不寧を改善する

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茯神(ぶくしん)(寧神安神)

茯苓(ぶくりょう)の最中心部、安神作用に優れ、睡眠障害、不安に効果がある

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2007_118_008

酸棗仁(さんそうにん):(養心安神)

心肝血虚の不眠症などに特に効果があり、盗汗、自汗にも有効である

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2007_118_011

竜眼肉(りゅうがんにく):(補心脾、益気血、養心安神)

補気養血作用に優れ、心脾を益し、以って心神不寧を改善する

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2007_118_016

遠志(おんじ):(寧心安神、痰開竅)

温性の唯一の安神薬である。抑鬱状態の改善に優れ、心腎不交の不眠に用いられる。古くより怪痰の痰を消す作用があるとされる。

(温性なので胃熱がある場合は不適)

    続く、、