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自律神経失調症の漢方治療 ①

2007-01-17 17:21:06 | うんちく・小ネタ

自律神経失調症とは?

 自律神経失調症とは非常に曖昧に使われている病名です。病名というより病態を表すものです。一般的には交感神経と副交感神経の二つの自律神経から成り立つ自律神経系のバランスが崩れた場合に起こる病態です。

交感神経はアドレンリン、ノルアドレナリンの働きで、人間をエネルギーの急速な補給が必要な戦闘状態にする働きを持ちます。瞳孔を散大させ、気管支を拡張させます。心拍数、心収縮力を増加させ、末梢血管を収縮させ血圧を上昇させます。同時に骨格金への血液供給を増加させます。発汗を起こさせ、胃腸や膀胱の平滑筋を弛緩させます。戦闘状態で便意や尿意を感じさせないようになっています。肝臓でのグリコーゲンからブドウ糖への分解と脂肪の分解によるエネルギーの供給を行います。

副交感神経はアセチルコリン、ムスリンの働きで、緊張を弛緩させ、戦闘状態から平常へ戻す働きを持ちます。散大した瞳孔を収縮させ、心拍数を下げ、末梢血管を拡張させ血圧を低下させます。戦闘状態で広がった気管支を収縮させ、無緊張だった胃腸や膀胱の平滑筋を収縮させ、尿意や便意を復活させます。

 慢性的なストレス状態では、生体は休息し、体力を回復させ、エネルギーを蓄える必要があります。これは副交感神経の働きです。心拍数や血圧を下げて、皮膚や胃腸への血流を増加させ、唾液腺の分泌を促進させ、胃腸の蠕動運動を促進します。

 自律神経の中枢は脳の視床下部にあり、この場所は情緒、不安や怒りなどの情緒の中枢とされる大脳辺縁系と相互連絡している理由により、情志(情緒)の問題も関わって来ます。

情志(情緒)の問題も関わる場合には、自律神経失調症の病態は実際にはうつ病、パニック症候群や身体表現性障害などが正式な病名として認められる場合があります。悪性腫瘍でも似たような症状が表れます。

自律神経失調症の症状と漢方の考え方の概説

自律神経失調症とは「検査をしても異常がみられないのに、さまざまな症状が現れる病気」と現時点では考えてください。検査をして何らかの異常がある場合や、慢性肝炎、糖尿病などの基礎疾患がある場合は除外します。また、躯幹部の悪性腫瘍、脳腫瘍などの気質的な疾患がある場合も同様に除外します。

全身症状:易疲労感、だるさ、眩暈(めまい)、立ちくらみ、不眠、食欲不振、フラフラする、手足の火照りなど

    主として気虚(ききょ)と血虚(けっきょ)、陰陽のバランスの欠如として考えます。

情緒症状:怒りっぽい、イライラする、落ち込む(気がめいる)などは肝気の流れが阻害された肝気郁結として考えます。やる気の無さ、集中力の欠如などは

    髄海不足として腎虚、気虚の両者から考えます。不安感も肝気と関係します。強迫性障害(ささいなことが気になって仕方が無い)は、患者さんのおのおのの体質に合わせ、陰陽のバランスを整え、必要であれば安神剤(安定剤)を処方します。うつ病、パニック症候群もそれぞれ漢方的な弁証治療が可能です。

頭部症状:頭痛、頭重は「内傷頭痛」として、肝 脾 腎の臓の機能から弁証(診断)します。

   :眼精疲労、乾燥感、結膜の充血、涙目に対しては、肝血不足、肝腎陰虚、肝腎不足などから弁証を進めます。

   :耳鳴が最も多く、腎気不足、脾胃虚弱、肝火、痰火、淤血などが関与します。

口腔  :口味異常、舌痛、口干(口が渇く)などは、脾気虚、痰湿、陰虚などから弁証します。

咽喉部 :異物感が最も多く、主として痰湿の弁証を中心とします。

呼吸器 :息切れは気虚、胸苦しさは痰湿、痰火などから弁証を進めます。肝気と肺気の相互の関係や、腎の関与も考慮に入れます。

心臓  :心悸(動悸)、心痛、血圧の不安定などが多く、心血、心陽、陰虚を中心に、水飲、淤血へと弁証を進めます。

消化器 :嘔気、下痢、便秘、おならが出やすい、ガスが溜まりやすいなどは、脾を中心に肝気、陰陽のバランスを平行して弁証を進めます。

皮膚  :痒み、乾燥肌、脂性肌、異常発汗(多汗証)などは、風(ふう)、血熱、陰血虚、湿熱、衛営不和などが原因となります。

筋肉 :肩こり、背部痛、無力感などです。主として脾胃の弁証を中心にして、肝、腎の弁証を進めます。痿症(いしょう)の漢方的なアプローチを行う場合があります。

四肢  :痛み、痺れ、冷え、火照りなどに対しては、症(ひしょう)の漢方的なアプローチの他に、「冷え」の漢方独自な解析と、陰陽のバランスを重視します。

泌尿生殖:婦人病としての月経に関係する諸症状や陰部掻痒、帯下病は殆どの場合漢方にて対応が可能です。その他神経性頻尿、無菌性膀胱炎、男性の心因性インポテンツ、陰部掻痒なども漢方で弁証治療が可能です。女性の更年期障害の諸症も漢方の得意とする分野です。

自律神経のバランスが崩れる原因(七情内傷)

現代医学ではホルモン異常、生活習慣の問題などの他に、最大の原因としてストレスをあげています。精神的に緊張した状態が続くと、交感神経優位の状態が続き働き、バランスが崩れて、やがて自律神経失調症になってしまうと考えてもいいでしょう。

中国漢方医学では「七情内傷」といい、怒、喜、思、悲、憂、恐、驚の7種の情志が人体の生理活動範囲を超えた時、疾病の発生原因となると考えます。

七情発病の特徴は

    発病当初に続いて七情内傷(直接に相応する内臓に影響を与えること)がおこる。

    臓腑の気機逆乱、気血失調を起こす。

    心から始まることが多い。

    心、肝、脾の三臓の気機逆乱と気血失調が多く見られる。

    怒即気上、喜即気緩、思即気結、悲即気消、憂即気郁、恐即気下、驚即気乱の性質を持つ。

    持病を重くさせ、悪化の速度を早くさせる。

    精神疾患と関係する。

の以上です。たとえば精神的疲労によって最も損傷されやすい臓は心と脾です。怒りによって損傷されやすい臓は肝です。

 また中国医学では労逸(ろういつ)(過労と過逸)は、精神状態も含めた人体の正気に悪影響を与えるといいます。過労とは過大な精神的、肉体的、性的、出産による疲労を指します。過逸(かいつ)は不労(ふろう)ともいい、安逸をむさぼることです。過逸により気血のめぐりが悪くなる。痰湿が出やすくなり、「久臥傷気」といい気を損傷するとも言われます。

「情緒の変化により、情緒の病を治す」という中国古典の考え

いまから2200年ほど前の「素問」陰陽応証大論に以下のような記載があります。

過度の喜びによる病気は恐れさせると治る

過度の悲しみによる病気は喜ばせると治る

過度の思慮による病気は起こらせると治る

過度の怒りによる病気は悲しませると治る

過度の恐れによる病気は思慮させると治る

これらの治療法での具体的な成功例は、その後の古典に多く記載されています。

現代のサイコセラピーの走りです。

   

   続く、、