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自律神経失調症の漢方治療 ⑨

2007-01-29 13:17:07 | うんちく・小ネタ

頭痛漢方専科 群発頭痛の漢方治療

   群発頭痛とは?

大の男が涙を流して「目の奥が痛くてたまらない。目の奥をえぐられるような痛みがある。かなづちで頭を殴られるようだ。」とじっとしていることが出来なくて、頭をかかえて部屋の中をうろうろする。痛む方の目は充血して涙がでる。酷い場合は鼻水を流して見た目が哀れだ。

年(ねん)に決まってでる時期と時間帯がある。その時期にはアルコールを飲むと決まって頭痛がおこる。明け方に痛みで目が覚める。その痛みが恐ろしくて眠れないような明け方発作型もある。海外出張で飛行機に乗ったら発作が出たというサラリーマンもいる。群発頭痛の原因はいまだに知られていない。交感神経と副交感神経のバランスが崩れていることは確かなようである。体内時計の変調が原因であると推測している学者も存在する。

 私が「自律神経失調症」の一種の病状としてあげている理由は、自律神経の変調にしても、体内時計の変調にしても、どちらも生体の「自律機能の失調」だからである。

私の老師のさらにその老師の驚くべき漢方処方 「寒症型群発頭痛」

 私の老師の上海中医薬科大学の朱教授から教えられた話である。朱教授が彼の直属の老師の外来書き番(教授のそばに座り、カルテを口述筆記する役目の医師)の時である。ここ1ヶ月ほど夜中3時ごろから5時ごろまでの酷い頭痛でろくに眠っていないという中年の男性が受診した。睡眠不足が続いた結果いわゆる無神という元気の無い表情である。年に3回ほど2ヶ月ぐらい頭痛発作が起きる時期があり、一年の約半分は睡眠不足と訴えていた。

 老教授は診察をするや、すらすらと処方名を述べた。朱教授は耳を疑った。

なんと毒性のある附子(ぶし:トリカブト)を60g(1日量)含む処方箋だったからである。病院の薬剤部も大騒ぎ、老教授と朱医師の2つの印鑑を処方箋に押してやっと漢方生薬が薬局から患者に手渡された。

 翌日、件(くだん)の患者が満面の笑みで再受診した。

「おかげさまで、嘘のように楽に眠ることが出来ました。」

喜びの涙を流しながら、患者は老教授の手を握り締めて何度も謝意を伝えた。

順次、附子の量を減らしていったのは言うまでも無い。

以来、老教授は「附子の達人」の名を欲しいままにしたという。

朱教授は

「日本人は中国人に比べ漢方薬に過敏な体質があるから、鈴木先生が試される場合には10~15g程度にしておいたほうがいいですよ。」

と忠告してくれた。

漢方の診断の中には基本中の基本である「寒熱弁証」がある。中医学では当たり前の基本的診断ではあるが、西洋医学の診断には「無い」。頭痛の診断の中にも無い。

現在では附子(ぶし)は生附子の毒性を炮制して毒性を減弱させた炮附子を使用している。もちろん「寒症」に用いられる。

私の同僚の趙博士は寒症の頭痛に対しては、頭痛薬である川芎 (せんきゅう)は脳血管拡張作用があるので使用せず、茱萸(ごしゅゆ)の方が良いと言う。

 西洋医学での頭痛の診断に中国医学の最も基本的な「寒熱」の診断が無いのは残念である。

「熱症型群発頭痛」

天麻鈎藤飲(てんまこうとういん)釣藤散(ちょうとうさん)などが有効だといわれているが、単独で十分な効果が得られるかについて私は疑問がある。

天麻鈎藤飲(てんまこうとういん) 雑病証治新義

作用:平肝息風 清熱安神 補益肝腎

天麻 鈎藤 石決明 山梔子 黄 牛膝 益母草 杜仲 桑寄生 夜交藤茯神が組成の方剤であり、日本にはエキス剤は無い。

天麻 鈎藤 石決明が主薬の組合わせで肝陽と肝風を抑える(平肝息風)。

山梔子 黄芩は肝熱を清する。牛膝は上逆した血を下降させる(引血下行)。

益母草は清熱活血に働く。杜仲 桑寄生は補肝腎に、夜交藤と茯神は精神安定(寧神安神)に作用する。血圧が高めで、のぼせがあり、年配の方で気血両虚気味で、かつ眩暈(めまい)がある場合の方剤であり、群発頭痛のような激しい頭痛にたいする主方ではない。頭痛より眩暈が目立つ症例に使用される。

 ところで天麻鈎藤飲の出典とされる「雑病証治新義」は1958年 胡光慈著であるが「新義」とは「新しい解釈」の意味であり、原典を私は知らない。どなたか目に止まった方で原典を知っている御仁がいれば教えていただきたい。

釣藤散(ちょうとうさん) 宋代 許叔微 「普済本事方」

作用:平肝息風 健脾化痰

釣藤鈎 菊花 防風 陳皮 半夏 人参 茯苓(茯神) 炙甘草 石膏

涼薬(ブルー)温薬(赤)平薬(グリーン)の組成と石膏が比較的多量に配合されていることから熱症にたいする方剤と思われる。

平肝息風に作用する釣藤鈎 菊花 防風の組合わせは天麻が無いがほぼ天麻鈎藤飲と同意である。陳皮 半夏 人参 茯苓(茯神) 炙甘草の組合わせは益気健脾化痰の作用であり、全体の組合わせは、「肝風」と「痰」が結し、「風痰」となり頭目に上擾(じょうじょう)した場合の方薬である。

朝方の頭痛に効果があるとも言われている。のぼせや目の充血、血圧は高め、眩暈(めまい)、不眠傾向がある場合に有効である。しかし、釣藤散単独では群発頭痛を抑えきれないと私は考える。日本には釣藤散のエキス剤がある。

中国では薬効を強くするために羚羊角(れいようかく: サイガカモシカの角)を配合した羚角釣藤湯が古来よりあるが日本では市販されていない。釣藤散には頭痛に特化した頭痛生薬との配合が必要である。

   続く、、