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自律神経失調症の漢方治療 ⑧

2007-01-26 19:32:17 | うんちく・小ネタ

頭痛漢方専科 緊張型頭痛の漢方治療

慢性頭痛の中で、「緊張型頭痛」に悩まされている人は意外に多く、成人のアンケートで類推すると10~20%の成人が罹患しているといわれます。男女比を比べると「片頭痛」が圧倒的に女性に多い(男性の約4倍)のとは対照的に性差がありません。「片頭痛」が若い女性に比較的多いのに対して、「緊張型頭痛」は好発年齢層が無いのが特徴です。私の経験では自律神経失調症と診断されたとおっしゃる患者さんの中には「片頭痛」より「緊張型頭痛」が多い気がします。

   緊張型頭痛の痛みの特徴

 頭全体が鉢巻(はちまき)で締め付けられるような痛みです。きつい帽子をかぶっているような痛みだと訴える患者さんもいます。

 痛みの程度は一般に我慢できる程度で、鎮痛薬や筋弛緩薬で収まるので日常生活に支障をきたすことはあまりありません。殆ど毎日のように頭痛が起こるのも特徴です。随伴症状として最も多いのが肩こり、首筋のこりであり、次いで疲れやすい、背部痛、腰痛、眼精疲労、フワフワとした眩暈(めまい)などです。

   緊張型頭痛に対する西洋医学の考え方と治療

不思議なことですが、緊張型頭痛の原因を西洋医学の医師は(といっても、私も西洋医学の医師ですが)片頭痛の原因ともなる精神的なストレスと、肩こりや眼精疲労を誘発する身体的なストレスの2つであると言います。

西洋医学的には片頭痛は脳の血管の異常拡張が原因であり、西洋医学的には脳血管の拡張を防止させる片頭痛の治療と、血行を改善して血流量を増加させる緊張型頭痛の治療は「逆」であると言います。一方、「症例の中には片頭痛と緊張型頭痛の混合型も存在する」とも言います。

明らかな論理矛盾です。実態の解明が無きに等しいと言わざるを得ません。

西洋医学的デジタル思考の積み重ねでは移行型、混合型をとらえきれません。漢方の病態観は「病態には必ず移行型が存在する、混合型もあっても不思議ではない」とするものです。

 緊張型頭痛を起こす2種類のストレスについて西洋医学では次のように一般人に説明しています。

精神的なストレスが原因の場合

 対人関係などの精神的ストレスが溜まると、神経や筋肉の緊張が高まり、この緊張が脳に波及し、痛みを調整する機能がうまく働かなくなり、頭痛が続くようになる。

疑問: 精神的なストレスは片頭痛の原因でもあったはずなのに、緊張型頭痛の場合には、中間に筋肉の緊張という現象が入ってくるのは何故なのか?片頭痛は精神的なストレスなどが消失した時に発生しやすい例もあるのは何故なのか?そもそも精神的なストレスで筋肉が緊張する人としない人にはどういう差があるのか?

はてしなく疑問が続きます。回答は西洋医学からは得られていません。

続いて


身体的なストレスが原因の場合

 1日中コンピュータに向かう人などのように、不自然な姿勢などが原因で生じる筋肉への負担が、筋肉の緊張やこりにつながり、これによって頭痛が起こる。

疑問: 眼精疲労(目の疲労)は不自然な姿勢ではないはずなのに、現実的には眼精疲労を訴える人に緊張型頭痛が多いのは何故か?

 わからないことばかりです。

緊張型頭痛に対する漢方のアプローチ

キイワードは肩こり、眼精疲労、頭痛です。これらを中国漢方医学論で連絡すると以下のようになります。

肩こりというのは経絡や経筋における気血の淤滞(おたい)によります。漢方用語で「気鬱(きうつ)」あるいは「気滞(きたい)」と言います。全身の気をのびのびと運行させ、血液の流れや流量の調節を行い、筋膜を柔軟にさせ、精神を安定させ朗らかにするのは「肝」の働きによります。肝は目に開竅(かいきょう)するといい、目にも深いつながりがあります。

肝気が欝滞すれば疎泄機能が低下し、胸腹部が脹悶して痛む、生理不順、生理痛などの症状が現れます。

脾胃の気滞になると胃腸の昇降機能が失調し、腹部の脹痛、げっぷ、胃酸を嘔吐する、便秘などの症状が現れます。

経絡が気滞になると気滞が起きた部位の筋肉にこりや痛みが出現します。特に女性の場合では「女子は肝を以って先天と為す」と言われているように、肝と月経には密接に関係します。

肝気はのびのびと広がる春の生長の気で抑鬱を嫌います。ところが、肝気の条達が失われると、精神は不安定、不明朗となり、筋肉は固くなり、目は疲れ、胃腸の働きも不調になり、最終的に血液の流れ、流量が変調をきたします。女性では生理不順が起きやすくなります。肝気の停滞は長引くと「化火」して頭痛を悪化させます。

肝は筋(すじ)をつかさどり、目に開く。まさにストレス、肩こり、眼精疲労と関係します。脾胃が虚弱ですと、気血不足になり、ひいては肝血虚にもなります。古来より肝血虚には肩こり 眼精疲労 目のかすみが特徴的な症状とされます。

以上の観点から専門用語になりますが、

治療原則は疏肝理気 活血化淤 温経散寒 舒筋活絡です。個人差に合わせて益気養血を組み合わせます。

柴胡疎肝散(さいこそがんさん) 疎経活血湯(そけいかっけつとう)

身痛逐淤湯(しんつうちくおとう) 葛根湯(かっこんとう)

などの合方をベースにして、頭痛引経薬(いんけいやく)を加味していく方法がとても効果的です。日本国内で入手可能な方剤は疎経活血湯と葛根湯です。頭痛引経薬については稿を改めます。

柴胡疏肝散(さいこそがんさん)明代 景岳全書

柴胡 香附子 芎  陳皮 白芍 炙甘草 が組成です。ブルーは涼薬、グリーンは平薬 赤は温薬です。効能は疏肝解郁(そがんかいうつ)といい、鬱滞した肝気の流れを良くする方剤です。ストレス性の肝気鬱結に使用されます。自律神経失調症の第一選択方剤ともいえます。

疎経活血湯(そけいかっけつとう)明代「万病回春」

当帰 白芍 熟地黄 ? 牛膝 陳皮 桃仁 威霊仙  防己 羌活

防風  龍胆草 茯苓 甘草 生姜が組成です。

効能は風湿 養血活血 主治は風湿症 血虚であり、元来は慢性関節リュウマチの治療方剤ですが、「冷え性」の治療薬としての側面があります。冷えは寒凝血淤(かんぎょうけつお)を引き起こし、血行を悪くさせ淤血を生じ肩こりの原因ともなります。頭痛に効果のある羌活 白芷 などの生薬も配合されています。

身痛逐淤湯(しんつうちくおとう)清代「医林改錯」

秦艽  桃仁 紅花 甘草 羌活 没薬 当帰 五霊脂 香附子 牛膝

地竜が組成です。血行が悪くなった慢性化した関節の痛み、腰痛に対する方剤です。

葛根湯(かっこんとう)漢代「傷寒論」

葛根 麻黄 桂枝 生姜 炙甘草 白芍 大棗からなる方剤です。古来よりカゼの初期でうなじや背中が強張る時に愛飲されてきた方剤です。しかし現代中国ではもう葛根湯は市販されていません。日本ではエキス剤が存在します。

 

肩こりの中医学的な治療原則は、理気、活血、散寒湿、緩急です。気の流れを良くする、血液の循環を良くして淤血を除く、冷えや余分な水分を取り除く、筋肉の緊張を和らげるということになります。さらにストレスによる肝郁(がんうつ)気滞(きたい)を疏肝理気(そがんりき)の方法で改善します。殆どの緊張型頭痛は改善します。

最後にとっておきの治療方法をご紹介します。

努力、真面目、勤勉を忘れ去って能天気に暖かい地方でぶらんぶらんと遊ぶこと」これが最も効果的です。

一生懸命遊ぼうとするのもいけません。それがまたストレスになるからです。       ストレスは万病の本です。

  続く、、