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婦人科漢方がん治療と莪朮(がじゅつ)

2007-01-11 13:10:11 | うんちく・小ネタ

続編

2006年の暮れから2007年正月は上海で過ごした。数年ぶりの友人や元患者さんとの楽しい晩餐を連日過ごした。上海カニ、アヒルのスープはおいしかった。乳がん手術後4年目、卵巣がん術後3年目に入る元患者さんも皆さん元気で食欲も旺盛であった。

上海の腫瘤科での乳がんの中医学治療

ベースに、 肉桂、炮附子、仙霊脾、鹿角膠干姜、当帰、枸杞子、黄耆、柴胡、人参、熟地黄、生地黄などを使う。

乳がんに親和性のある漢方抗癌剤として、蒲公英根、山慈姑  白花蛇舌草 半枝蓮 蛇莓、根 夏枯草 七叶一枝花 露蜂房 龍葵 全蝎などの抗癌生薬を組み合わせる。軟堅散結作用のある威霊仙(いれいせん)を組み合わせることも多い。

次に、患者さん一人一人に合わせたアレンジを行っている。  例えば、

肝気郁結の強いタイプ:

ストレスが多いタイプである。腫瘍の浸潤のためではない、両脇腹の張った痛みがあり、怒りっぽかったりする。乳房は腫瘤部分以外も張って硬い。舌苔を観察すると、黄色みを帯びていることが多く、舌質は赤く、血点も存在することがある。脈は弦脈で有力である。以上のような特徴がある。このタイプは中国女性に多く、日本女性には少ない気がする。

枳壳 青皮 八月扎 香附子などを加味する。淤血の証が強ければ、路路通(中国語でルールートン)、王不留行(おうふるぎょう)、郁金(うこん)、莪朮(がじゅつ)などを加味する。内熱をかんがみて、肉桂 炮附子などの量は加減する。

毒熱瘟結(うんけつ)タイプ:

微熱がある。乳房に局所的な赤みがある。乳頭は陥没している。舌は紅絳舌、舌苔に剥落局面がある。頻脈傾向がある。

このような場合は、清熱解毒と温養扶正を同時に行う。そのバランスは難しい。

蒲公英根、白花蛇舌草、半枝蓮、菊花などを、加味あるいは増強する。

生理不順や陰虚火旺が目立つタイプ:

男子では遺精やインポテンツがあり(男性でも乳がんは発生する)、一般に、腰痛や下肢のだるさなどがあり、掌や足の裏がほてったりする。舌苔は一般的に少なく、脈は頻脈傾向があるが弱い。

こういう場合は香附子 菟絲子 別甲 脂 八月扎 北沙参などを加味する。

気血両虚タイプ

顔色が悪い、声が低い、痩せが目立つ、痛みがひどいなど、かなり進行した場合である。淤血の証も多く、いわゆる癌悪液質に近いタイプである。不眠傾向もひどくなる場合がある。この時期になると、陰虚証も強くなってくる。

不眠煩燥には酸棗仁、遠志などを使用する。

腫瘍の硬さを減じ、漢方抗癌生薬の浸透をよくする目的もかねて、浙江省の貝母、海藻、牡蛎、海浮石、威霊仙などで「軟堅化淤」をはかり、蒲公英根、白花蛇舌草、半枝蓮、などともに、山慈姑、楼根などのそのほかの抗癌生薬を増やす。

温陽と養陰のバランスは各患者さんによって異なってくる。養陰補陰に偏りすぎてはいけない。また、免疫増強と生命力のアップの目的で野生人参を使用する場合には、郁金などを併用する。

乳房痛がはなはだしい場合は、延胡索、芍薬、生甘草を服用するほかに、田七人参、莪朮などを併用する。 蟾蜍などが含まれている漢方鎮痛貼り薬を併用する場合もある。

一般的に、患者さんの体質に関係なく郁金、莪朮、三棱 を処方されている先生方もいる。

上海の腫瘤科での卵巣がんの中医学治療

以前紹介した、上海の王○○さん43歳はStage3cの卵巣がん術後(子宮+両側附属器(卵巣、卵管)+大網、骨盤内、傍大動脈リンパ節+虫垂等の摘出術)、西洋抗がん剤治療(パクリタキセル(タキソール)とシスプラチン、後にタキソテール単独)の後でも、漢方抗がん生薬や他の漢方薬を服用した。彼女が服用した漢方薬をご紹介する。

白花蛇舌草、半枝蓮、半辺蓮、重楼(七葉一枝花)、拳参、土茯苓、龍葵、天葵子、威霊仙、楼根、野山人参、黄耆、白朮、莪朮、土? 虫(しゃちゅう)、川郁金、冬虫夏草、山薬などである。

ロシア産あるいは中国長白山産出の野山人参、天然紫霊芝および霊芝胞子粉、チベット産冬虫夏草、莪朮、郁金、牛黄(牛の胆石)、何首烏、枸杞子は、彼女の祖母の時代から王家では珍重されてきたものである。

野山人参、霊芝および霊芝胞子粉、冬虫夏草は代表的な免疫力を増強させる薬剤であり、莪朮、郁金はそれ自体抑癌作用のある破血行気薬(血液をさらさらにするとともに、気のめぐりを良くする組み合わせ)であり、牛黄(牛の胆石)は清熱解毒作用とともに体内の異常な「痰」を除くものである。中医学ではガンを「痰凝淤血(たんぎょうおけつ)」ととらえる。従って、祛痰剤や破血行気剤はガン治療に欠かせない。西洋抗がん剤による脱毛の回復に養血剤である何首烏を服用し、さらに陰虚体質を枸杞子で補正改善している。

彼女にとって、腫瘤科(ガン治療部)に知人の教授がいたのは幸いであったが、忠実に、食事療法を守り、漢方薬を飲み続けている彼女の素直さに私は改めて驚いた。お国柄の違いを感じさせられた。

その他の命名されている卵巣がんの方剤

蛇蓮地? 湯(日本語読みが出来ないので、中国語読みでは、シャーレンディービエタン) 組成は、

白花蛇舌草 半枝蓮 橘核 昆布 桃仁 地竜 土? 虫 川楝子 小茴香 

莪朮 人参 苡仁 紅花

これにも莪朮は配合されている。臨床的に症状の軽減、病勢の進行速度の低下に

75%が有効であるとされる。

がん治療における活血止痛法とは

 中医学では淤血(おけつ)が生じると「刺痛」が生じ、痛みを除くには、淤血を除き気を通す(破血行気)ことを治療原則とする。一般的な活血止痛法に用いられる生薬は

丹参 赤芍 桃仁 紅花 三棱 莪朮 乳香 没薬 益母草 土?虫 王不留行 当帰尾 などである。

古代から、中国では

女性の癥瘕痞塊(ちょうかひかい)(腹腔内腫瘤を示し、婦人科系腫瘍が多い)には三 莪朮 桃仁 別甲などを使用するのが定法であった。

莪朮(がじゅつ)の婦人科系疾患における有効性を物語っている。

     続く、、