患者:劉某 65歳 女性
初診年月日:2003年3月8日
病歴:
患者は8日前、汗が出た後で皮膚に丘疹が出現、現地の医院で阿司咪?(H-1受容体拮抗剤、英文名Hubermizole、Lembil、Mildurgen、Romadine、Vagranを抗アレルギー目的で内服(現在ではFDA勧告により製造中止)、????(セフォタキシムNa、CTX:第二世代セフェム系抗生物質 日本ではクラフォラン、セフォタックスの商品名で知られる)の点滴静注後に腹張、無尿となった。末梢血液WBC21000、ヘモグロビン16.2g/dL、尿検査:尿蛋白+、RBC8~10個/HP;腎機能:BUN22.3mmol/L(133.8mg/dL)、Cre469.0μmol/L(5.30mg/dL)、超音波検査で双腎大小正常。
(西洋薬服用、抗生物質点滴の後で無尿が生じたのですから、素直に考えれば薬剤性腎傷害による急性腎不全です。発汗後の丘疹の診断、原因は不明です。)
初診時所見:
無尿、4日間大便無し、悪心、腹部隠痛、張満、舌質淡紫、苔薄白、脈沈。
中医弁証:
癃閉;気血瘀滞、腎絡損傷、気化失司、水液不行、湿濁瘀毒が体外排出不能
西医診断:急性腎不全
治法:辛開苦降、温陽利水、活血解毒の法
方薬:半夏瀉心湯加減:
半夏(辛散温 化痰燥湿散結止嘔)15g 黄芩(苦降寒 清熱解毒利湿 泄熱除痞)15g 大黄(活血通腑泄濁)15g 黄連(苦降寒 清熱解毒利湿 泄熱除痞)15g 乾姜(辛熱 温中散寒)15g 砂仁(化湿行気和中)15g 桃仁(活血化瘀 潤腸通便)15g 桂枝(通陽)15g 車前子(清熱利水)15g 赤芍(清熱涼血、祛瘀止痛)15g 白豆蔲(行気温中化湿消痞)15g 枳実(破気消積、化痰除痞)15g 白花蛇舌草(清熱解毒利湿)30g
水煎、毎日1剤、2回に分服。
(傷寒論:半夏瀉心湯の半夏 乾姜 黄芩 黄連の辛開苦降の生薬の配伍があります。桂枝は通陽利水目的で車前子に配伍されたものと思います。大黄と活血化瘀剤の配伍、化湿行気剤の配合、清熱解毒利湿の白花蛇舌草の配伍は氏の常用するものです。癃閉の治療概念としての半夏瀉心湯加減です。)
二診:
服薬4剤で患者の大便は通暢、尿量は漸増し、24時間尿量は2100mlに達し、腹部隠痛減軽、張満はあるが、悪心無く、少量の流動食が可能になった。舌質淡紫、苔薄白、脈沈。BUN17.15mmol/L(102.9mg/dL)、Cre461.6μmol/L(5.22mg/dL)。
(初診から4日後で急性腎不全の利尿期に入りました。)
方薬:
黄連15g 黄芩15g 枳実15g 厚朴15g 草果仁15g 茵陳蒿15g 紫蘇15g 葛根15g 紅花15g 赤芍15g 陳皮15g 半夏15g 甘草15g 神曲(消食導滞)15g 山楂(消食導滞)15g 大黄10g 丹参20g 連翹20g 麦芽30g
水煎、毎日1剤、2回に分服。
(乾姜は除かれ、二陳の半夏と陳皮、大黄は一貫して使用されています。神曲、山楂、麦芽などの消化補助の消食薬が配伍されました。)
三診:3月17日
服薬5剤後、患者腹僅かに張る、痛み無し、納食好転、大便毎日1回、24時間尿量1700ml。上方治療継続
経過:3月21日
患者状態良好、自覚症状無し、納食、二便正常。BUN4.26mmol/L(25.56mg/dL)、Cre88.1μmol/L(0.99mg/dL)、治癒退院となった。追跡調査3ヶ月、腎機能正常。
ドクター康仁の印象
薬剤性の場合に、(腎炎などの基礎疾患を持たないか、あっても軽度な場合には)癃閉(急性腎不全)の初期には辛開苦降の治療原則で半夏瀉心湯中の半夏 乾姜 黄連 黄芩を処方に入れ、人参は太子参、或いは党参に変え、大棗は氏の経験では入れる必要が無く、大黄を中心として、活血通腑泄濁法と砂仁 白豆蔲 枳実 草果仁などの行気薬を併用すると、早期に利尿がもたらされ、良好な治療効果が得られることが示されましたね。治療のタイミングといい、使用生薬の種類といい、見事に的中でした。
2014年4月15日(火)