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薬剤障害性急性腎不全 黄疸合併例 張琪氏漢方医案2(腎病漢方治療324報)

2014-04-13 00:15:00 | 急性腎不全の漢方治療

患者:張某 59歳 男性

初診年月日:1995年5月28日

病歴

患者は元来健康であった、黄疸発熱にて某病院伝染病科に入院、??(トランスアミナーゼ)、胆?素(ビリルビン)が正常値の数倍と高かった。診断は黄疸性肝炎、1ヶ月の治療を受け、トランスアミナーゼは正常域に接近したが、ビリルビン値が高いまま下降せず、かつ、BUN20.16mmol/L120.96m/dL)、Cre316μmol/L3.57m/dL、当該病院で急性腎不全の診断となり、中医の会診を招聘した。

初診時所見

1995528日、張琪氏会診、眼球結膜の黄染著しく、体幹部の黄染もあり、体温37.8℃、自汗、嫌食、脂膩を見ただけで嘔吐する、全身極度に衰弱乏力、大便正常、小便の色は黄で濃茶のようである。尿中ビリルビン+。病院では、大量の抗生物質投与が腎不全と関連があると認識した。脈象左右沈無力やや数、舌苔白、舌質淡、患者は目を開けようともせず、翻身転側皆困難である。

中医弁証:正虚邪恋、肝気失調、瘀血阻絡、毒熱内蘊之証

西医診断:急性黄疸性肝炎、急性腎不全

治法:益気疏肝、清熱活血解毒

方薬

紅参(益気)15g 黄耆(益気)30g 柴胡(疏肝理気 解熱)20g 枳殻(理気下降)15g 白芍養営斂陰)25g 甘草15g 青蒿(清熱涼血 退虚熱 截瘧20g 茵陳蒿(清熱利湿退黄)25g 蒲公英(清熱解毒利湿)30g 金銀花(清熱解毒利湿)30g 連翹(清熱解毒利湿)30g 桃仁(活血化瘀 潤腸通便)15g 紅花(活血化瘀)15g 赤芍清熱涼血、祛瘀止痛)15g 大黄(活血通腑泄濁)10g 丹参(活血化瘀)20g 当帰(活血養血)20g

水煎、毎日1剤、2回に分服。

(補気薬でも温性が強い紅参の使用は陽虚に対応する配伍ですが附子の配伍はありません。大補元気という人参の作用です。自汗が有りますので、益気固表目的で黄耆が配伍されたのでしょう。疏肝目的での柴胡、柴胡の升陽と気機調整の理気下降の枳殻の配伍、白芍、甘草は四逆散を連想させますが、四肢不温などの症状はありません。結果的に四逆散に近い処方になったというところでしょうか。青蒿は温病後期の残熱によく用いられる生薬です。黄疸をマラリア類似と考えたわけではないと思います。截瘧とは抗マラリア作用を意味します。黄疸といえば傷寒論の茵陳蒿湯の茵陳蒿 大黄 山梔子が思い出されますが、本案の大黄は腎不全に対応するものが大半と思われます。結果論ですが大黄と茵陳蒿の組み合わせがビリルビン低下に寄与したとも言えるでしょう。)

二診67

上方服用14剤で黄疸は顕著に減退、身熱既に退き、体温36.7℃、全身僅かに有力、食欲も僅かに好転、汗は止まり、小便の色はまだ黄、大便日に12回、黏?(粘々して臭い)。肝機能:ビリルビン値は下降、但しまだ正常域より高い、腎機能:BUN13.7mmol/L82.2m/dL)、Cre221μmol/L2.49m/dL)、舌苔は白で薄く見え、脈沈、前よりも有力。患者精神体力皆好転有り、病情好転につき、上方加減を継続する。

方薬                                                

紅参15g 黄耆30g 柴胡20g 枳殻15g 白芍25g 甘草15g 牡丹皮(清熱活血涼血)15g (青蒿20gを去る)茵陳蒿25g 蒲公英30g 金銀花30g 連翹3020g 桃仁15g 紅花15g 赤芍15g 大黄10g 丹参20g 当帰20g 沢蘭葉(活血化瘀)20g

水煎、毎日1剤、2回に分服。   

(青蒿を去り、牡丹皮 沢蘭葉を加味し、連翹は減量されました。)

三診616

上方服用14剤で、ビリルビン値及びCreBUNが全て回復し正常となった。食欲好転、二便正常、全身も以前に比べ有力、既に退院して帰宅し休養していた。

経過:引き続き上方を継続服用7剤にて治癒した。

ドクター康仁の印象

黄疸性肝炎の病原ビールスの検査は陰性だったのでしょう。中国では流行性肝炎(A型)も多いのです。大量の抗生物質投与の根拠は胆道系炎症のためだったかと推定します。張琪氏は出張会診を行ったわけですので詳しい臨床データを手元に持たなかったのです。

私自身の経験では高齢の男性、アミノグリコシド系抗生物質投与4日間後の急性腎不全の症例が有りました。専門的用語になりますが、血液濾過法透析で救命できた症例です。もう1例は、黄疸顕著な高齢の男性、いわゆる肝腎症候群を併発し、血漿交換と腹膜透析を併用したものの救命できなかった症例です。一般的には黄疸と腎不全が合併すると予後が非常に悪くなります。

この患者さんは運がよかったといえるでしょう。4週間足らずで治癒したわけですから、張琪氏の手腕には脱帽です。薬剤性の一過性腎傷害としての急性腎不全が考えられますが、黄疸合併、全身状態悪化の症例に対する氏の対応の見事さを損なうものは一切ありません。医療人として、一度は経験したい症例でしょうね。

2014413日(日)