まくとぅーぷ

作ったお菓子のこと、読んだ本のこと、寄り道したカフェのこと。

蜩ノ記

2012-02-17 07:02:20 | 読書
ありもしない罪をかぶり
命の期限をきられて過ごすのは
どんなキモチがするものなのだろう
ましてやそれが10年では

読む前にはてっきり
主人公は当の本人だと思っていたのだが
そうではなく
彼が確実に死ぬことを
知り得た主の家の秘密をあの世まで持ってゆくことを
見届けるように言いつけられた男だった

信頼する ということは難しい

そのひとがどんなに自分を思ってくれているか知っていても
そのひとがどんなにまっすぐに生きているかわかっていても
「もしかしたら」というキモチがよぎってしまう

死を命じられた男は
疑われたことをみずからの責任だと考えている
だからこそ黙ってその罪を負う

わたしは妻だし娘だから
男は立派だけれどエゴイストだ と思う
じわりじわりと近づいてくる「その日」まで
ともに暮らすこと そのあと遺されること
家族にとってはたまらない

監視役の男は
その家族や村の住民と過ごすうちに
じぶんの生き方を見出してゆく
終盤クライマックスでは
やりすぎ感も否めないけれど
ひとと出会うことで変わることができる というのは
ニンゲンの特筆すべき美点だと思う

縁(えにし)

この世のすべてのひとと持てるわけではないからこそ
繋がることができたひとの存在が
生きていく支えになる、と
男と罪を一緒にかぶった女が話す

聞かせている相手は完全に間違っているけれど
彼女のこのコトバはわたしは好きだ
感情のままに語れることは素敵だし
隙だらけでかわいらしい

葉室さんの文章は さらさらとした手触りで
でこぼこもなく躓くこともなく読める
情景や空気がすうっと伝わってくるのが心地よい

最終章 蜩の声に父を思い
決意をあらたにするこどもたちの姿に泣けた