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現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

松谷みよ子「龍の子太郎」

2024-07-17 08:59:22 | 作品論

 現代児童文学の出発期の1950年代(出版は1960年)に書かれた創作童話の古典です。
 三匹のイワナを一人で食べてしまったために龍になり、その後に生まれてきた子どもを育てるのに乳の代わりに自分の目玉を与えたためにめくら(原文ママ)になった母親と生き別れになった龍の子太郎が、波乱万丈の冒険の末に、みんなと力を合わせて豊かな土地を開拓し、おかあさんも元の姿に戻すことができるというハッピーエンディングストーリーです。
 児童文学研究者の石井直人は、この作品を「作者と読者の「幸福な一致」。すなわち、作者と読者のユートピアである。」と評しています。
 つまり「龍の子太郎」は、まだ民衆の団結や社会の改革を、作者も読者も信じられた時代の児童文学の大きな成果だったのです。
 さらに言えば、日本が「戦争、飢餓、貧困」といった近代的不幸を克服できていなかった50年代や60年代前半の子どもたちにとっては、米やイワナを好きなだけ食べられる豊かさというのは、現在の子どもたちには想像できないような大きな夢だったのでしょう。
 その後、70年安保の敗北や革新勢力の分裂などを経験した1970年代には、「国内での矛盾を外国を侵略する事によって解決しようとする思想」だとか、「個々の登場人物が行動する際の契機になっている発想のディテールは、実は(解放の)正反対の献身と自己犠牲の範疇にある」などといった批判を受けた時期もありましたが、それらはこの作品の背景にある遠い昔からの民衆の願いを軽視した的外れなものでしょう。
 飽食の時代で、母と子の関係も大きく変わった現在では、読者の子どもたちは、この作品の持つ意味合いを正しく理解することは困難だと思われますが、ハラハラドキドキするストーリーや親しみやすい民話の語り口は今でも十分に楽しめます。

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龍の子太郎(新装版) (児童文学創作シリーズ)クリエーター情報なし講談社


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