現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

三浦しをん「舟を編む」

2017-11-20 09:08:26 | 参考文献
 本屋大賞を受賞したベストセラーです。
 まず第一に、普段は日の当たることのない辞書の編集者に目をつけた作者のアイデアの勝利でしょう。
 実際の現場への取材を通して、普通の人の知ることのない辞書編纂の裏側を紹介しています。
 しかし、そこに盛られた人間ドラマがあまりに薄っぺらいので驚きました。
 登場人物の描き方が、どれをとっても表面的で魅力がありません。
 もちろん、こういうマンガ的な平面的キャラクターの描き方が、今のエンターテインメントでは主流なのは承知していますが、それと辞書の編集という題材とがミスマッチをおこしています。
 また、辞書の編纂には時間がかかるので、作品を時間的に二分して、登場人物の若返りを図るとともに、どちらの時代にも恋愛物語を挿入するのは、三浦のメインの読者である若い女性へのサービスなのでしょうが、安直すぎてついていけません。
 本屋大賞も、最初の小川洋子の「博士の愛した数式」のころは隠れた本を発掘してベストセラーにする働きを持っていましたが、だんだん既に売れている本の人気投票のようになって、受賞作は質的に大幅に低下しています。
 もちろん書店員は本を売るのが仕事なのですから、どんな形であれ本屋大賞によってベストセラーができればそれでOKなのでしょうが。

 
舟を編む
クリエーター情報なし
光文社
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古田足日「<「あかつき戦闘隊」大懸賞」>問題

2017-11-20 09:05:05 | 参考文献
 「日本児童文学」1968年6月号、8月号に掲載された文章です。
 「あかつき戦闘隊」は、少年サンデーに掲載された戦記物のマンガです。
 その当時は、もう少年漫画雑誌は書店で立ち読みするくらいだったので記憶がはっきりしないのですが、あまり人気のあるマンガではなかったと思います。
 それが一躍有名になったのは、海軍兵学校の正装やナチスの軍旗、鉄十字章などを大懸賞(そのころの少年漫画雑誌は販促手段として懸賞をよくやっていました)と銘打って大々的にアピールしたために、市民団体の反対運動を受けたためでした。
 その反対運動の発端は日本児童文学者協会の抗議によるものだということは知っていました(新聞やテレビでも報道されました)が、それが当初は著者を含めた数人の個人的な活動だったことは初めて知りました。
 また、当時の日本児童文学者協会が政治活動の運動体としては非常に未組織だったこと(そのため、反対運動の主体は婦人団体などに移っていったようです)や、収入源である出版社への抗議のためらいなども、今から見ればほほえましくさえあります。
 けっきょく、このような抗議活動にもかかわらず、少年サンデーは大懸賞を強行しました。
 しかし、こうした抗議活動は出版社側にとっては想定外だったらしく、その後はこのような問題は起こらなくなったので、一定の成果をあげたようです。
 ご存知のように、現在ではこうした軍国調のものを公に懸賞に出すようなリスク(特にナチス関連はSNSであっという間に世界中から抗議を受けます)を犯すような無知な会社はありませんが、近未来SFやファンタジーの形を借りて同様のことはもっと巧妙に行われています。

児童文学の旗 (1970年) (児童文学評論シリーズ)
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理論社
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