現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

石井直人「現代児童文学の条件」(「研究=日本の児童文学 4 現代児童文学の可能性」)所収

2024-04-26 11:36:22 | 参考文献

 1998年に出た日本児童文学学会編の「研究=日本の児童文学 4 現代児童文学の可能性」の巻頭を飾る「総論」の論文です。
 ここでいう現代児童文学とは、1950年代に始まって1990年代に終焉(または変質)したといわれる狭義の現代児童文学(他の記事を参照してください)ではなく、(同時代の)という意味の広義の現代児童文学です。
 論文は、以下の四部構成になっています。
1.「幸福な一致」
2.子ども読者――読書のユートピア
3.子ども読者論の変奏
4.楕円構造――児童と文学という二つの中心
 1では、現代児童文学の出発時にさかのぼり、作者の認識と読者の認識、さらには批評までが一致していた幸福な時代について、松谷みよ子の「龍の子太郎」を中心に述べています。
 2では、著者が戦後児童文学の批評における最大の書物とする「子どもと文学」を中心に、「子ども読者」の創造と読書のユートピア時代について語られています。
 3では、1978年の本田和子の「タブーは破られたか」、1979年の今江祥智の「もう一つの青春」、1980年の柄谷行人の「児童の発見」という三つのエッセイをもとに、「児童文学のタブーの崩壊」、「児童文学と一般文学の互いの越境」、「子ども論」などを中心に、「子どもと文学」が提示した「子ども読者論」がどのように変化し、現代児童文学が変遷していったかを考察しています。
 4では、児童文学が「児童」と「文学」という二つの中心を持つための特殊性と、それゆえの矛盾や葛藤を持つものであるかが示されています。
 全体を通して、「総論」らしく現代児童文学の概観について、文学論、読者論、児童論、心理学、哲学などの知見をちりばめてアカデミックに書かれていて、注に掲げられていた論文や文献も含めて読みこなすのにはかなりの時間がかかりましたが、非常に勉強になりました。
 

現代児童文学の可能性 (研究 日本の児童文学)
クリエーター情報なし
東京書籍

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