現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

御厨貴X佐藤信「先生、このまま逃げる気ですか」中央公論2012年7月号所収

2017-02-07 09:08:42 | 参考文献
 政治学者の御厨とその弟子筋にあたる佐藤の、世代間格差に関する討論です。
 御厨は1951年生まれですが、自分を団塊世代と呼ばれるのが嫌らしく、「少し下」と最初から逃げ腰です。
 佐藤は1988年生まれですが、先行していろいろなところで発言している赤木智弘(1975年生まれ)のような世代間格差に対して上への徹底抗戦型でもなく、古市憲寿(1985年生まれ)のように世代間格差はあるけれど取り合えずの現状満足型でもなく、世代間格差に対する団塊世代の責任に対してバランスの取れた指摘をしています。
 ここで二人は、悲惨な戦争体験をした七十歳以上の高齢者に対してはみんなで支えていこうということには、お互いにコンセンサスを持っています。
 問題は現在六十代の団塊の世代です(討論の時点で、御厨はその一番下にあたる61歳です)。
 彼らは、戦争体験もなく、高度成長の恩恵を一番受け、現在のような閉塞した社会を作った元凶です。
 ところが、人口が一番多く投票率も高いので、今でも政治的な力を一番持っています(多数決による民主主義の悪い見本です)。
 政治家(まだ団塊世代も多い)も官僚も、彼ら団塊の世代(選挙におけるマジョリティ)を向いて仕事をしています。
 デフレなのにルール通りに年金を削減しないでいたことなどは、その悪い典型です。
 佐藤の真摯な問いかけに対して、御厨はのらりくらりとかわすのに終始しています。
 彼の発想の下には、自分も「逃げ切り世代」だと思っていることが透けて見えます。
 世代間格差や財政破綻の解消の議論に対して消極的で、二人の議論はかみ合いません。
 私は御厨よりも年下の1954年生まれで、完全に逃げ切れる世代ではないのですが、それでも、佐藤と同じ1988年生まれと1990年生まれの二人の息子たちに対しては、こんな世の中にしてしまったことに対する強い負い目を感じています。
 将来的な年金受給年齢の引き上げなどの次世代に対する施策ではなく、すでに受給している人たちの中でも六十代については年金を大幅に引き下げるなどの対策をとらないと、根本的な世代間格差の解消や財政再建は不可能でしょう。
 そこで浮いた分については、若年層の雇用や少子化対策に回して、少しでも世代間格差の是正を行う必要があると思います。
 現在の子どもたちや若者たちを取り巻いている貧困、ネグレクト、児童虐待、いじめ、就職難、世代間格差、歪んだエネルギー政策などの問題も、すべて大人(特に団塊世代)が作り出した問題で、責任は若い世代にはないのです。

中央公論 2012年 07月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
中央公論新社

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« タブ | トップ | デービッド・アーモンド「世... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

参考文献」カテゴリの最新記事