2012年に発行された、いわゆるグールド本(おびただしい数の本が出版されています)の一冊です。
あとがきで著者が述べているように、31歳でコンサート・ピアニストを引退したグールド(50歳で亡くなっています)は、主にレコードにおける演奏について語られてきたので、このようにコンサート活動を、5歳で初めて人前で演奏(ただしオルガン)してから引退するまで網羅的に記述していて、音源が残っているものはそれも紹介している(すべて巻末にリストアップされているグールド本からの情報で、著者独自の取材はしていないようですが)のは、グールドファンだけでなく、私のようにほとんどグールドを聴いてこなかったグールド初学者(ピアニストでは、ホロヴィッツとアシュケナージのファンでした)にとっても、非常に参考になりました。
しかし、冒頭で、グールドと同世代の世界的に有名な三人の若者、ジェームス・ディーン、エルヴィス・プレスリー、ホールデン・コールフィールド(サリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(その記事を参照してください)の主人公)も紹介し、グールドと「怒れる若者たち」ないしは「理由なき反抗」との関連をほのめかしていますが、実際に書かれているのは皮相的な誰もが知っている内容で、著者の独自の考察も全くなく、「羊頭を掲げて狗肉を売る」の類です。
他にも、ビートルズやケルアックの「オン・ザ・ロード」(ビート・ジェネレーションを描いた代表的な作品)も紹介しているのですが、ほとんど意味不明です。
だいいち、「怒れる若者たち」や「ビート・ジェネレーション」について実感を持って語るには、著者(私もそうですが)は若すぎますし、グールドのコンサート・ピアニスト時代(ジェームス・ディーン、エルヴィス・プレスリー、ホールデン・コールフィールドが活躍した時代でもあります)の大半は、著者は生まれてもいませんでした。
また、副題に掲げた惹句「孤高のコンサート・ピアニスト」や巻末に掲げたハンニバル・レクター博士(トマス・ハリスの「羊たちの沈黙」などの主人公)の有名なセリフ「それと、音楽。グレン・グールドの「ゴールトベルク変奏曲」?要求がすぎるかな?」も、内容にはそぐわずピントはずれな感じです。
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グレン・グールド 孤高のコンサート・ピアニスト (朝日新書) |
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朝日新聞出版 |