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現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

桐野夏生「ハピネス」

2020-05-16 08:54:54 | 参考文献
 銀座に近い湾岸部にあるタワーマンション(高層階の分譲の部屋は億ションでしょう)を舞台にした、五人のママ友の話です。
 「VERY」という三十代後半から四十ぐらいまでの専業主婦を対象にした女性誌に連載されたので、読者対象を絞り込んだつくりになっています。
 舞台のタワーマンションや登場人物のファッションやグッズ類の説明は、具体的なブランド名も含めて異様に詳しく書かれています。
 そういった情報は、おそらく雑誌の編集側から提供されているのでしょうが、それらの物などの細かい差異で五人の登場人物を階層化しています。
 作品の題材も、雑誌の読者が関心のある、ママ友の軋轢、他の配偶者との不倫、主人公の秘密の過去、離婚の危機、嫁姑問題、有名私立幼稚園への「お受験」、車、ファッション、アクセサリー、ネイル、エステ、ホームパーティなどが、ふんだんに盛り込まれています。
 しかし、そのどれもが中途半端でご都合主義に書かれています。
 例えば、五人のうち三人は分譲マンション棟住まいなのに、主人公は賃貸棟(と言っても家賃は月23万円ですが)ですし、もう一人などは全く別のマンションです。
 そんな五人がママ友になるのは現実には不自然なのですが、ママ友になったいきさつは全く書かれていません。
 三人対二人の対立的構図を描くために恣意的に設定したのでしょうが、あまりのご都合主義に苦笑せずにはいられません。
 読者対象が絞られている雑誌の連載としてはそれでもかまわないでしょうが(どうせ肩の凝らない読物が期待されているでしょうから)、不特定の読者を対象とする単行本としてはどうかなと思います。
 巻末には、「単行本化にあたり、大幅に加筆修正しました」と書かれていますが、本当かな?と首をかしげてしまいます。
 かつて「OUT」などの優れたエンターテインメントを書いていた作者にしては、ずいぶんお手軽な作品を書いたもんだと慨嘆しました。
 児童文学の世界でも、雑誌に連載されたり、編集者に読者対象を絞り込まれたり(例えば小学校低学年向きなど)、枚数を指定されたりすることもあります。
 そういった出版社の注文に対して巧みに書き分けるのがプロの作家なのでしょうし、彼らにも生活があるのでそういった仕事を完全には否定しません。
 しかし、そういった作品の大半は、たんなる消費財として、すぐに忘れ去られてしまうことが多いようです。

ハピネス
クリエーター情報なし
光文社

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