現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

江國香織「子供たちの晩餐」温かなお皿所収

2021-01-18 21:14:07 | 作品論

 1993年6月初版の短編集の中の一編です。
 ママとパパが外出するので、四人の子供たちだけで夕食をすることになります。
 いつでも用意周到なママは、もちろん夕食を用意しています。
 チキンソテーとつけあわせのにんじんとほうれん草(子どもそれぞれに合わせて量が調整してあります)、サラダとレモンジュース、パンとりんごで、今日も栄養のバランスは完璧です。
 しかし、六時になると、四人は庭に穴を掘り用意してあった夕食を埋めます。
 そして、小遣いを出し合って準備しておいた「晩餐」をします。
 彼らが禁止されていてそれゆえ憧れていた食べ物、カップラーメン、派手なオレンジ色のソーセージ、ふわふわのミルクせんべいと梅ジャム、コンビニエンスストアの正三角形の大きなおむすび、生クリームがいっぱいの百円で売っているジャンボシュークリーム、それに飲み物は水に溶かす粉末ジュースです。
 これらを、好きな場所で、好きなだけ食べたり飲んだりして満足感を感じたのです。
 児童文学研究者の石井直人は、「現代児童文学の条件」(「研究 日本の児童文学 4 現代児童文学の可能性」所収、内容についてはそれについての記事を参照してください)において、この作品を山中恒の「ぼくがぼくであること」と並べて、「グレードやスタイルがちがうけれども、読者にとっては、「離婚児童文学(注:石井は岩瀬成子「朝はだんだん見えてくる」、末吉暁子「星に帰った少女」、今江祥智「優しさごっこ」、ワジム・フロロフ「愛について」を例に挙げています)」と同じようにはたらくにちがいない。」と述べています。
 おそらく石井は、管理主義の両親への子どもたちの反乱としてこの作品を捉えているのでしょうが、そんなごたいそうなものではありません。
 現代児童文学史において重要な位置を占めている山中恒の「ぼくがぼくであること」とこの作品を並べているのは、買いかぶりが過ぎます。
 だいいち、ここで子供たちが食べている物は、1993年当時でも普通の子供たちの常食ばかりなので、これに憧れる子どもたちというのはかなり特殊な環境で育っているとしか言いようがなく、普通の生活をしている読者たちにはまるでピンときません。
 あるいは、江國香織自身がこれらの食べ物が禁止されるほどのお嬢様育ち(もしかすると石井直人も同じようなお坊ちゃま育ち)なのかもしれませんが、一般の読者たちにとってはとても子どもたちの行動にシンパシーが持てないので、他の「離婚児童文学」のような働きは期待できません。
 この作品に対する妥当な評価は、才気あふれる作者のちょっとした思い付きによる小品といったところだと思います。

温かなお皿 (メルヘン共和国)
クリエーター情報なし
理論社
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吉川英治「三国志」

2021-01-18 16:57:59 | 参考文献

 言わずと知れた、古代中国の戦乱時代を描いた歴史ロマンです。
 三国志自体は、中国の三国時代の歴史書なのですが、古来さまざまに脚色された本が流通しています。
 日本でも様々な「三国志」が存在しますが、吉川英治の本が日本での決定版といっていいでしょう。
 また、三国志はマンガや様々なゲームになっていますが、それらも吉川英治版をベースにしています。
 三国志は、劉備、関羽、張飛の義兄弟が序盤の主役ですが、中盤は魏、呉、蜀の三国の成立が描かれ、終盤は劉備の軍師で蜀の丞相になった諸葛亮孔明が主役になります。
 夥しい登場人物の中には、劉備、関羽、張飛、呂布、曹操、司馬懿、周瑜、陸遜などの魅力的なキャラクターが描かれていますが、なんといっても最大のスターは孔明でしょう。
 歴史上天才と呼ばれる人はたくさんいますが、「千年に一人の大才」と言われているのは孔明だけです。
 この本を読んで、かつての私のように、自分は孔明の生まれ代わりだと信じている少年は今でもたくさんいるのではないでしょうか。
 この本は、私にとっては中学高校時代の最大の愛読書でした。
 不思議に、中間テストや期末テストの前になると読みたくなるので、この文庫本で八冊以上にもなる大著を何度読んだかわかりません。
 きっと、試験勉強という現実を逃避して、古代の歴史ロマンの世界に身を置きたかったのでしょう。
 「泣いて馬謖を斬る」とか「死せる孔明、生ける仲達を走らす」といった名文句はいつも心の中にあります。
 今回、久々に電子書籍で読みましたが、少しも古びることがなく著者の格調高い文章で語られる真のエンターテインメントを楽しむことができました。

三国志 (1) (吉川英治歴史時代文庫 33)
クリエーター情報なし
講談社

 

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ボブ・グリーン「男のなかの男」チーズバーガーズ所収

2021-01-18 16:55:57 | 参考文献

 55歳の配管工の男を取り上げたコラムです。
 彼は、家庭の事情で教育を受けられなかったために、読み書きがまったくできません。
 それでも、配管工の仕事を見よう見まねで覚え、結婚もし子どもも孫もいます。
 しかし、文字が読めないために職を失ったのをきっかけに、一念発起してボランティアの先生について読み書きの勉強を始めます。
 私はこのブログで主に本について書いていますが、彼のことを思うと、本が読めるということ、それからそういう環境を与えてくれた両親への感謝の思いを新たにします。
 また、現代の日本にも、彼のように家庭の事情で教育を受けられない子どもたちがたくさんいることも、思い返さざるを得ません。
 ボブ・グリーンは、後にはかなり変わってしまいましたが、元々は彼のような普段はスポットライトが当たることのない市井の人々を取り上げた優れたコラムをたくさん書いています。

チーズバーガーズ―The Best of Bob Greene
クリエーター情報なし
文藝春秋
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万城目学「趙雲西航」悟浄出立所収

2021-01-18 16:54:22 | 参考文献

 これまた中国の古典で、日本でも人気のある三国志を舞台にしています。
 そして、ここでも、主役の劉備でも、一番人気の関羽でも、千年に一度の大才といわれる諸葛亮孔明でもなく、趙雲子竜にフォーカスをあてています。
 趙雲と言えば、天下無双の槍の名手で、男の中の男という言葉がふさわしい武人ですが、そこに生きることや故郷への哀愁を与えたことが、この作品のミソでしょう。
 でも、作中には三国志マニアではないと何だかわからないエピソードが満載なので、すべてにピンとくる読者は限られる(特に女性には難しいでしょう)かもしれません。
 もっとも、現在は、三国志はコーエーのテレビゲームやパソコンゲームなどで若い世代に人気があるので、案外大丈夫かもしれません。
 私が三国志に夢中だったのは、小学生から高校生にかけて吉川英治の「三国志」(その記事を参照してください)を何十回も読みふけっていたころ(なぜか定期試験の前になると読みたくなります)と、子どもたちとコーエーのゲームをやっていたころです。
 電子書籍になったので久しぶりに読んでみました(その記事を参照してください)が、相変わらず面白く昔ほどではありませんがかなり夢中になれました。

悟浄出立
クリエーター情報なし
新潮社

 

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ボブ・グリーン「チーズバーガーズ」

2021-01-18 16:51:26 | 参考文献

 1985年に出版された同名のコラム集から、訳者が選んだ31編を翻訳して、1986年に出版されました。

 その前年に「アメリカン・ビート」というコラム集が紹介されて、当時は日本でも作者のコラムは盛んに読まれていました(私の持っている本は1990年1月20日10刷です)。

 無名の人から有名人(例えば、モハメド・アリやメリル・ストリープなど)までの人生のある面を鮮やかに切り取って、その中に1980年代のアメリカの姿を浮かび上がらせる作者の腕前はさすがのものがあります。

 特に、この本では、1947年生まれの作者が30代の経験とフレッシュさが一番バランスの取れていた時期に書かれたものなので、数ある作者の本の中でも最も優れている作品の一つだと思われます。

 個人的な好みもありますが、有名人や彼自身の知人を書いたものより、全く無関係の無名の人々を書いたコラム(例えば、55歳にして初めてアルファベットを習うところから書くことを学び始めた男を描いた「男の中の男」(その記事を参照してください)や寂しさを紛らわすために自殺した夫が残した飛行機の格安(国内線だったら1フライト4ドルから8ドル)パス(夫がユナイテッド航空の従業員だったため)を使って飛行機を乗り継いでいる女性を描いた「飛行機のなかの他人」や亡くなった母の思い出を語る娘を描いた「母と娘」など)に優れたものが多いと思います。

 

 

 

 

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ボブ・グリーン「アメリカン・ヒーロー」

2021-01-18 16:49:01 | 参考文献

 1990年出版のいわゆる「ボブ・グリーン」ものの一冊です。

 あとがきにも書かれているように、このころのボブ・グリーンは、日本ではアメリカ国内よりも有名(CMにも出ていました)なぐらいで、それこそ雨後のタケノコのように彼のコラムを訳した本が出版されていました。

 この本も元になる自選集がある訳でなく、毎日書かれている彼の夥しいコラムの中から日本人にもわかるようなものを選んで訳して、「週刊プレイボーイ」に連載された後に本にしたのですから、「チーズバーガーズ」(その記事を参照してください)のような粒よりのコラムばかりではなく玉石混交です。

 また、作者自身も年齢を重ねるうちに、かつての若者らしい批判精神は次第に薄れて、かなり保守的な内容の物が多くなってきています。

 

 

 

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海よりもまだ深く

2021-01-18 15:02:02 | 映画

 2016年公開の日本映画です。

 離婚した男女とその一人息子を、月一度の面会交流の日を中心にして、描いています。

 夫が育った古い団地に一人で住む夫の母親を絡めて、修復できない二人の関係を際立たせています。

 小説家くずれで、探偵事務所に勤めている(本人はいまだに取材のためと証しています)駄目人間(平気で依頼主を裏切ったり、金持ちの高校生の弱みを握って脅したりして、違法な小銭を稼いでいますし、同僚に借金して競輪をしたりしています)を阿部寛が熱演しています。

 彼は、長身でイケメンなのですが、このようなやや病的なところのある人間(例えば、「テルマエ・ロマエ」(その記事を参照してください)や「結婚できない男」(その記事を参照してください)など)を演じると、不思議とはまります。

 樹木希林や小林聡美やリリー・フランキーなどの芸達者は役者が多数出演していて、作品のリアリティを保証しています。

 ただし、前半にダメ男ぶりを描きすぎたために、後半の家族ドラマや、樹木希林のいかにもそれらしい台詞にも、素直に感動できませんでした。

 

 

 

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