現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

庄野潤三「夕べの雲」

2021-01-20 14:55:24 | 参考文献

 昭和39年9月から昭和40年1月まで、日本経済新聞に連載され、昭和40年3月に講談社から出版されて、翌年の読売文学賞を受賞した作品です。

 作者の分身である主人公と、その妻、高校生の長姉、中学生の弟、小学生の末弟の五人家族のゆったりした暮らしが、開発(団地)で失われていく周囲の自然(神奈川県の小田急線生田の周辺のようです)への哀惜と共に、作者独特の滋味深い文章(一見、平易に見えますが、一言一言が詩心に裏付けされていて、とても真似できません)で描かれています。

 こうした一見平凡に見える日常を描いた作品を、新聞小説として受け入れる当時の新聞社の度量の大きさに驚かされます。

 もっとも、作者の場合は、その10年前にも、「ザボンの花」(登場する子どもたちが小学生と幼児なので、児童文学とも言えます)が同じ新聞社で連載されて好評だったせいもあるでしょう。

 各章は子どもたちのエピソードが中心ですが、その中に作者の子ども時代や両親や兄弟の思い出も描かれていて、家族の歴史に立体感を与えています。

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする