現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

スプラッシュ

2021-01-11 17:03:38 | 映画

 1984年のアメリカ映画で、ディズニーの映画部門であるタッチストーン・フィルムの一作目の映画です。
 子どものころに親しんだファミリー向けのディズニー映画(「罠にかかったパパとママ」(ケストナーの「二人のロッテ」の翻案(舞台を当時のアメリカにしています)や「スイスファミリー・ロビンソン」(ウィースの「スイスのロビンソン」(デフォーの「ロビンソン・クルーソー」の成功以来夥しい数が出版されたいわゆる「ロビンソン物」(関連する記事を参照してください)における数少ない成功作品)の翻案(登場人物や時代を当時のアメリカにしています)のテイストを、大人の世界に持ち込んだ現代のおとぎ話的なファンタジーです。
 主人公が子ども時代に海でおぼれた時に助けてくれた同い年くらいの子どもの人魚と、大人になってめぐり合い結ばれるディズニー映画らしいハッピーエンドな作品です。
 基本的にはドタバタコメディ(人間社会を知らない人魚の無邪気な魅力、好青年(死語ですね)の主人公とすけべで不真面目な兄の対比、二人の人魚の存在を証明しようとする偏執狂な科学者(いわゆるマッド・サイエンティストですね)とのバトルチェイスなど)で、ストーリーはたわいのない物なのですが、出てくる人物が権力者(政府、警察、科学者のお偉方などを除いては、みんな最後にはいい人(兄もマッド・サイエンティストも)になるし、二人が海の中で一緒に暮らすことになる(主人公が、慣れない海で暮らして、その後本当に幸せなのかはいささか不安ですが)ハッピー・エンドなので、安心して楽しめます。
 なんといっても、この作品を支えているのは登場人物の魅力です。
 主人公の青年を演じている若き日のトム・ハンクスは、アメリカの好青年(ピュア―でまじめで仕事もでき、長身でそこそこハンサム(これも死語ですね)にピッタリです(その後、やはり現代のお伽噺的な映画「ビッグ」(その記事を参照してください)で、同様の好青年を演じて賞を取りブレイクします)。
 人魚役のダリル・ハンナは、当時世界的に美人の代名詞であった典型的な北欧美人(長身で金髪で青い目)で、人魚姫にはうってつけ(御存じのように、「人魚姫」の作者のアンデルセンはデンマークの人です)なのですが、そこに野性的(水泳(当たり前ですが)もエアロビクスもアイススケートもすごく上手ですし、しばしば全裸(長い金髪が上手に隠しています)で登場したり、レストランでロブスターを殻ごとバリバリ食べたりしてしまいます)で現代的な(デパートでのショッピングに夢中になり、テレビで英語もエアロビクスもあっという間にマスターしてしまったりします)な要素を加味しています。
 主人公の兄役のジョン・キャシディーは「ホーム・アローン」などでお馴染みの名脇役で、すけべ(子ども頃から女性のミニスカートを下からのぞくのが癖で、大きくなってからは出会った女性を片っ端からくどいています)で、怠惰(仕事はあまりせずに遊んでいて、肥満していて、酒もたばこもギャンブルも大好きです)ですが、どこか憎めない(営業では社交的な性格を生かした手腕を発揮しますし、すごく弟思いです)陽気なアメリカ人にはうってつけです。
 マッド・サイエンティスト役のユージン・レヴィはユダヤ系(自身もそうです)の有名人の物まねもする人で、頭はいいが性格に難があって、でもどこか抜けているので憎めない、こうした役にうってつけです。
 他の記事でも繰り返し述べていますが、このようなデフォルメされた典型的なキャラクターの設定は、読者や観客を作品世界に引き込むための、エンターテインメントにおける重要な手法です。
 しかし、今では、多様なマイノリティの人たちや健康への配慮のために、特に映画やテレビでは難しくなっており、その分派手なCGなどでごまかした作品が増えてきています。
 この映画でも、現代ならば、白人中心主義(黒人やヒスパニックやアジア系の俳優をもっと使わなければならないので、金髪美人(これも死語ですね)などはもってのほかでしょう)、ギャンブルや飲酒や喫煙などのシーン、セクシャルなシーン、セクシャルハラスメント(ナンパやミニスカートを下からのぞくシーン)、人種差別(ユダヤ人の描き方など)などが問題になるでしょう。
 現代ではこうした配慮はエンターテインメント作品を作る上で当然必要なことなので、どうしたらそうした制約の中で、新しい典型的(分かりやすいと言い換えてもいいかもしれません)なキャラクターを創造するかが課題です。

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