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東アジアの軽みこそ、強さである・・「江湖」の精神(東島誠氏)日本は大人になりそこねた(白井聡氏)

2015-04-11 | アジア


イスラム文明もすばらしいですが、東アジアもすばらしいと思うことしきりです。


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「拡散する排外主義・・大人になりそこねた日本」朝日新聞2014・12・20


ネット空間から「反日」や「売国奴」といった言葉が広がり、メディアにも登場するようになった。

レッテルを貼り、排外的に攻撃する言動が拡散する背景にはなにがあるのだろうか?

この国の歴史と言論をめぐる歩みから考えた。


「江湖」の精神取り戻そうーー歴史学者 東島誠さん


坂本竜馬が理想を求めて土佐を脱藩したときの出港地と言われているのが、伊予国長花(現在の愛媛県大洲市)の「江湖(えご)」の港。

本来の読みは「ごうこ」もしくは「こうこ」です。

「江湖」は、唐代の禅僧たちが、「江西」と「湖南」に住む2人の師匠の間を行き来しながら修行した故事に由来します。

一つの場所に安住することを良しとせず、外の世界へと飛び出すフットワークの軽さを表わします。

国家権力にも縛られない、東アジア独自の「自由の概念」と言ってよいでしょう。

幕末を駆け抜けた竜馬の意思を継ぐかのように「江南」の看板を掲げたのが、明治期の言論界です。

「江南」を名にかんする新聞・雑誌が多数生まれました。

当時は官に対する民、国家に対する市民社会が「江南」でした。

自由民権運動のリーダーだった中江兆民は、東洋自由新聞で読者を「江湖君子」と呼んで社説を書き、晩年は町民自身が「江湖放浪人」などと呼ばれました。

現代では「江南」は全くの死語となりました。

ネット空間においても、わたしは「江南」の精神を見つけにくいと感じています。

「江南」とは正反対の「嫌韓・反中」やヘイトスピーチなど、排外的な主張が溢れているからです。
異論を述べると激しく攻撃され、排除される。

ネットは人々を開くどころか、閉じる方向へと進める役割を果たしていると思います。


「力増す「対外硬」」


ところが明治期を振り返ると、そこには「江湖」の精神が息づいていました。

夏目漱石をはじめとする名だたる文豪が寄稿した「江湖文学」は、無名の読者に投稿を呼びかけて、参加の場を開きました。

同誌の仕掛け人・田岡れい雲は、窮乏していた韓国(植民地支配以前の大韓帝国)からの留学生を援助するため、幸田露伴の妹・幸らの出演するチャリティーコンサートを企画し、「江湖」に対して義捐金を呼びかけてもいます。

しかし「江湖」の精神は、日露戦争を境に衰退していきます。

代わって、政府の弱腰外交をたたき、外国への強硬姿勢を掲げる「対外硬」が力を増し、「下からの運動」が台頭しました。

その頂点が1905年の「日比谷焼打ち事件」です。

ロシアに譲歩したポーツマス条約に不満をもつ数万人の群衆が、日比谷公園に詰めかけ、暴徒化して内相官邸や警察署、政府用語の新聞社を襲撃したのです。

社会派弁護士の花井たくぉうらとの超党派的な政治結社「江南倶楽部」を立ち上げた小川平吉は、早々に「江湖」の世界を離脱し、「対外硬」を推進しました。

さらには政治家として、その後の韓国の植民地化や袁世凱政府への「21か条要求」、治安維持法制定にも深く関与するに至ります。

「江湖」が退潮したもう一つの理由としては、「江湖倶楽部」と共闘して社会変革に取り組んていたキリスト教思想家・内村鑑三のような良心的な知識人たちが、時代の変化とともに内省に向かい、結果として積極的な外への発言を弱めることになった点があります。

かくして「江湖」は「対外硬」に負け、日本は戦争の時代に突入していきました。

ネットの言論空間やデモで「排外主義」が吹き荒れる昨今の状況は、100年前の「対外硬」を思い起こさせます。




「新聞は〝荷車に″」


現代のメディアに「江湖」の精神を復活させる道はあるのでしょうか?

新聞社の主筆も務めた中江兆民は、「新聞は世論を運搬する荷車なり」と語っています。

わたしは荷車での運搬に、汗する肉体労働、そのアナログ感が重要だと考えています

新聞記者は、現場を歩いて取材先の話を丹念に拾うことが大切だと思うからです。

江戸時代に活躍した行商の貸本屋も、重い本を何十冊も背負い、読者を訪ね歩く大変な重労働でした。

彼、彼女らは書物だけでなく、さまざまな情報を直接人と会うことで媒介していったのです。

人々と直接、顔を合わせて交流するその様子は、現代よりもはるかに開かれた社会を感じさせます。

希望や明るさが感じられない時代です。

それでもまだ、考え発言する自由は奪われていません。

既存メディアは、考えるための材料を汗して運搬することを諦めてはいけないと思います。




「大人になり損ねた日本ーー社会思想家 白井聡氏」


「日本人は12歳の少年のようなものだ」。

占領軍の総司令官だったマッカーサーは、米国へ帰国後、こう言いました。

では戦後69年を迎えた今の日本人は、いったい何才なのでしょうか?

このところの「日本人の名誉」「日本の誇り」を声高に言いたてているヒステリックな言論状況をも見ていると、成長するどころか、退行し、「イヤイヤ期」と呼ばれる第1次反抗期を生きているのではないか?、という感じをおぼえます。

中国や韓国は文句ばかりで生意気だから、イヤ。
米国も最近は冷たいからイヤ。
批判する人はみんなイヤ。
自分はなんにも悪くない。

どうしてこんなに子供になってしまったのか?

戦後日本が、敗戦を〝無かったこと″にし続けてきたことが、根本的な要因だと思います。


「欠けた〝敗戦感覚″」

日本の戦後は、敵国から一転、庇護者となった米国に付き従うことによって、平和と繁栄を享受する一方、アジア諸国との和解をなおざりにしていきました。

多くの日本人の主観において、「日本は戦争に負けたのではなく、戦争は終わったこと」になった。

ただしそうした感覚を持てたのは、冷戦構造と近隣諸国の経済発展が遅れていたからです。

冷戦が崩壊し、日本の戦争責任を問う声が高まると、日本は被害者意識をこじらせていきます。

「悪いのは日本だけじゃないのに、なぜ謝らなければいけないのか?」と。

対外的な戦争責任に向き合えない根源には、「対内的な責任」、つまりでたらめな国策を遂行した指導者の責任を〝自分たちの手でさばかなかった″事実があります。

責任問題の一丁目一番地でごまかしをやったのだから、他の責任に向き合えるわけがありません。

ドイツは今も謝り続けることによって、欧州のリーダーとして認められるようになりました。


それのみが「失地回復」の途であることを、彼らはよく分かっているのです。

1990年代には、「河野談話」や「村山談話」のように過去と向き合う動きもありました。

ところが今の自民党のなかには、来年、「戦後70年の首相談話」を出すことで「河野談話」を骨抜きにしようという向きもあるようです。

「河野談話」の核心は、慰安婦制度が国家・軍の組織的な関与によって女性の尊厳を踏みにじる行為であったことを認め、反省と謝罪を表明したことにあります。

この核心を否定するのか?


ここまで来たら、やってみたら、いかがですか?

内輪の論理がどこまで通用するのか、試してみたらいい。

国際社会は、保育園ではありません。

敗戦の意味を引き受けられず、自己正当化ばかりしていると軽蔑されるだけです。



「〝内輪″は脱するべき」

子どもを成熟に導くには、本来メディアの役割が重要でしょう。

しかし残念ながら今、大方がこども相手の商売に精を出している。

「嫌中・嫌韓」本が多く出版され、テレビは「日本人はすごい」をアピールする番組を山ほど作っています。


メディアの非力さは、権力との関係でも露呈しています。

新聞社やテレビ局の幹部が、度々首相と会食しているのはおかしい。

民主政治にとって徹底的に重要なのは、「公開性」です。

そのような常識を、日本の政治家は欠いているのではないか?

だから記者は政治家と個人的関係を築いて情報を得ようとし、〝内輪″のサークルが出来あがる。

「衆院選・投開票日」の報道番組で、安倍首相がキャスターの質問に色をなして反論し、イヤホンを外す、という一幕がありました。

一国の最高権力者がこれほど批判への耐性が弱いことに驚きますが、裏をかえせばそれだけメディアが首相を甘やかしてきたということでしょう。

日本の政治にとっても、ジャーナリズムにとっても害悪でしかない、いびつな〝内輪″文化を変えるべきです。

日本は戦後を通して大人国家になり損ねてしまった。

先進近代国家になったつもりだったけれど、社会の内実はゆがんでいたという苦い事実を、まずは正視するしかありません。

それができないのなら、もはや、〝敗戦″するしかないでしょう。


              (写真は、某寺にてveera撮)


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