光市母子殺人事件の被告に、死刑判決がおりたことをテレビで知り、ここのところ、ずっとそのことが心を離れません。
犯行当時18才と1カ月だったという被告は、公開された写真は大変幼く、いったいなぜそんなことを?という気持と、罪と罰という厳粛な思いに思わず息をのみました。
下の朝日新聞の記事は、2010年に切り抜いていたものです。
はじめて死刑場が公開された時の記事です。
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(引用ここから)
「厳粛、死刑の現場」
2010・8月28日朝日新聞
入り口に清めの塩が盛られ、お香のにおいが立ち込める。
東京拘置所(東京都葛飾区)の刑場は厳粛な雰囲気に包まれていた。
2006年12月以降17人の死刑が執行された場所。
報道機関の記者として初めて入り、死刑主の最後を辿ろうとした。
木目調の壁に藤色のじゅうたん。
思っていたより執行室は明るかった。
じゅうたんの中央には赤い正方形。
ガーゼで目隠しされた死刑囚の首にロープがかけられ、立たされる「踏み板 」の場所を示す枠だ。
枠のそばから直径20センチほどの大きな金属の輪が床から壁を伝うように4つ取り付けられていた。
ロープは公開されなかったが執行の際は直径3センチ、長さ約11メートルのロープが4つの輪を通して天井の滑車にかけられるという。
空調の静かな音だけが聞こえる執行室。
だが踏み板が開いて死刑囚が下の部屋に落ちる時は大きな音が響くと説明を受けた。
「死刑囚がまさに命を絶つ極めて厳粛な場所だ」として階下の部屋への立ち入りは許されなかった。
ただ検察官ら立会人が執行を見届ける「立会室」からはコンクリートの床の薄暗い部屋が見えた。
かすかな消毒液の匂いが、湧きあがる。
踏み板の真下には格子の蓋で覆われた排水溝が口を開け、生と死の境を感じさせた。
死刑囚が執行室の隣にある「前室」で拘置所長から執行を告げられてからこの部屋に入るまでわずか数分だという。
法務省幹部によると執行当日の朝、多くの死刑囚は日々を過ごしている「房」から出される際にた
だならぬ雰囲気で執行を察知するのだという。
短い間に自分の身の起こることをどこまで理解出来るのだろうか。
死刑囚が刑場に入ってまず連れてこられる「教誨室」には、大きな棚が据え付けられた仏壇があった。
親鸞と蓮如の像。
移動式で死刑囚の宗派によっては神棚や十字架に変わるのだという。
ここで死刑囚は、宗教者の「教誨師」と向き合っていすに座り、茶を飲んだりまんじゅうなどの「供物」を食べたりできる。
教誨室を出て、約10メートルの無機質な廊下をまっすぐ進むと「前室」に辿りつく。
真正面には金色の仏像が見守る。
執行室との間にある青いカーテンは死刑囚が目隠しをされるまで、執行室を見せないように閉ざされているという。
踏み板には、刑務官が数人がかりで運ぶ。
執行直前で抵抗しても実力行使で立たせるのだという。
執行室の奥にある薄暗いボタン室からは、3人の刑務官が「1番」「2番」「3番」と書かれたボタンを前で、幹部職員の指示を待つ。
指示があれば、一斉にスイッチを押す。
そのうちどれかが、踏み板を開くスイッチだ。
執行する刑務官の精神的な負担は相当なものだろう。
「手が震えるほどの緊張感の中、執行されるのは許されない罪を犯した者だ、社会正義のためにやらないと、と自分に言い聞かせている。」
刑場公開を前に法務省幹部は「現場から寄せられた男性職員の声を読み上げた。
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限定的な公開、疑問
諸沢英道・常盤大教授(被害者学)の話
裁判員制度で死刑に関わることになった市民が考える材料にしたいと言うが、比較的新しくきれいな東京拘置所の刑場をメディアに限定的に見せることで、どこまでその目的が果たせるのか疑問だ。
本来、刑事施設は国民に対しガラス張りにすべきもので、むしろ希望する市民には普段から刑場を公開すればよい。
ただ、死刑について議論すること自体は良いことだ。
犯罪被害者には逮捕から裁判、刑罰までの過程を知らせることが世界的な流れになっている。
死刑の執行に被害者遺族が立ちあうことも今後検討の対象になるだろう。
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(引用ここまで)
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この記事も同じテーマです。
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産経新聞 2010年8月27日
東京拘置所の刑場を初公開 「踏み板」部屋、刑務官の踏み板開くボタン部屋…
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/100827/trl1008271107002-n1.htm
法務省は27日午前、東京拘置所(東京都葛飾区小菅)の刑場を報道機関に公開した。
千葉景子法相の指示によるもので、国会議員の視察などを除いて、
刑場が公開されるのは極めて異例で、法務省が把握している限り、報道機関への公開は初めて。
千葉法相は刑場の公開をはじめ、死刑についての情報開示を進めた上で、
「死刑制度の存廃も含めた国民的な議論」を呼びかけている。
この日、公開されたのは、東京拘置所内にある2階構造の刑場で、
上階部分の立ち入りが認められた。死刑囚が首に縄をかけられた状態で立つ 「踏み板(刑壇(けいだん))」のある部屋のほか、
死刑囚が教誨(きょうかい)師と面会する部屋や、刑務官が踏み板を開くボタンを押す部屋、
検察官らが立ち会って、
執行を見届けるためのスペースなどが公開された。
一方、死刑囚の死亡を確認する下階の部分への立ち入りは認められなかった。
これについて、法務省は「遺体を扱う厳粛な場所」などと非公開の理由を説明。
また、実際に踏み板が開かれることはなく、死刑囚の首にかける縄も備え付けられていなかった。
千葉法相は先月、1年ぶりとなる死刑執行に法相として初めて立ち会った上で、
死刑制度の存廃を含めた在り方を検討する勉強会の設置と、
報道機関に向けた刑場の公開の方針を明らかにしていた。
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平和な生活を一瞬にして奪われた被害者のご一家のお悲しみは察するにあまりありますが、
ご遺族がおっしゃっておられた「事件が起きた瞬間から、勝者はどこにもいない。」という言葉はたいへん深く、
それでも法の裁きがあるとしたら、それはなにをもたらすものなのか、改めて考えに沈んでいます。