今年80歳になるお婆ちゃんがいる
祖師谷のウルトラマン商店街近くに住んでいるので
仮に“ウルトラA子”さんとしよう
そのA子さんには、80年間来の悩みがあった
生まれてから現在に至るまでの、長~い悩みだ
そんなに長い間悩んでいたとは驚きで
「寝ている時も、悩みが頭から離れない」とは
少々、マユツバのような気もするが
本人がそう言うのだから仕方がない
さて、その悩みとは…
実は“出っ歯”なのだ
なるほど、人より上唇のあたりが前に出ており
その唇から何本かの歯がはみ出ている
しかし、お年もお年だし
それほど気にするほどの事ではないと思うのだが
コンプレックスというものは厄介なものだ
ちょっとお洒落して出かける際は
いつもマスクを着用する
80歳だが、まだ容姿を気にしているのだ
「可愛い」と見るか それとは別な見方をするかは
意見の分かれるところ…
その彼女の口癖は「アタシは出っ歯が悩みでね」
行きつけのスーパー銭湯「そしがや温泉21」で
湯船に浸かっている時でも、誰かと顔が合うや
その口癖を枕詞に世間話を始める
枕詞と世間話には全く関連がなくても平気なのだ
「アタシは出っ歯が悩みでね。最近ヒッタクリが多いって?」
(コレ 本当の話)
高くて滅多には行けないが
孫の就職など祝い事がある際にノレンをくぐる
「寿司の青柳」でも、板前に注文する時
「アタシは出っ歯が悩みでね…トロとイカ握って」
(くどい様だが コレ 本当の話)
今年の2月、そんなA子さんに“事件”が起こる
歯槽膿漏が原因で、丈夫だった出っ歯が
次々と抜けてしまったのだ
これで長年の悩みは消えた
晴れて「美人シャンの仲間入り」(A子さん談)だ
しかし…前歯がないと食事はもちろん
喋るのも難儀になる
「ハェファフェファ…」と何を言っているか判らない
長年の悩みは消えたが、新たな悩みが発生した
仕方なくA子さんは、地元の歯医者に行き
入れ歯を作ることにした
そして、念入りに型を取った
A子さんの入れ歯が出来上がった
A子さんはワクワクしていた
新しい入れ歯を入れた自分の口元を想像した
想像では、口元が輝いていた
A子さんは、歯医者の診察室の椅子に座り
年甲斐もなく胸をドキドキさせ、老先生に尋ねた
「入れ歯、綺麗に出来ました?」
すると老先生、低いテンションで
「ま、土台が土台だからね…」
A子さんは不吉なものを感じた
老先生は、出来上がった入れ歯を
A子さんの口に、グワガガッという感じで入れた
そして「噛んでみて」
A子さんは歯を噛み合わせた
ガツガツ…噛みあわせが素晴らしい
「先生、凄くいい感じです」と笑顔になる
だが、老先生から手鏡を渡され
自分の口もとを見た瞬間
A子さんの笑顔が引きつった
そこに映っていたのは…
以前よりヒドイ
“出っ歯の入れ歯”だったのだ
くどいが、コレは本当の話だ…
悲惨な話だ シュワッチ!
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