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★フィギュアスケート女子@バンクーバー五輪

2010年02月26日 16時18分55秒 | バンクーバー五輪
少なくともフィギュアスケート女子の演技で今回のKim Yu-Naを越える演技を見たことがない。世界最高得点は妥当。
ショートプログラムで5点近い差がついたことで採点への不満の声が上がっていた。特に不正があったという意見を多く見掛けた。もちろん事実は分からない。しっかりとフィギュアを理解した上での発言も中にはあり、確かに説得力を持つものもないとは言わない。しかし、実際の演技を見て、不正があったと言うのは贔屓目に過ぎる。トリプルアクセルの採点基準に難があると言うのであれば分かるが、それはまた別の問題である。

浅田真央のトリプルアクセルは素晴らしい。現時点で試合で跳べる唯一の女子選手だと言ってもいい(中野友加里はここ2シーズン決めていない)。その技術は世界一である。しかし、トリプルアクセルを跳ぶこととジャンプの上手さとはまた別の話だ。ルッツジャンプが苦手といったことだけでなく、アクセル以外のジャンプの美しさにやや見劣りがする。これはジャンプの美しさをどう判断するかという問題でもあるのだが、Kim Yu-NaがGOEの取れるジャンプへと極めていったのに対して、浅田はそこまでの追求ができなかった。それを行うことでジャンプの精度が下がる可能性もあり、分かっていてもできなかったのだろう。その代わりにトリプルアクセルの精度を高め、またシークエンスやスピンの完成度を高めた。その結果、フリーではスパイラルシークエンスに2.60という非常に高いGOEを得ている。

Kim Yu-Naに対してもうひとつ「無難」に演技したという意見も目立つ。これは男子のライサチェクとプルシェンコの問題もあってより話題にされたと言えるだろう。ライサチェクは4回転を回避して金メダルを得た。それをプルシェンコが非難した。
しかし、Kim Yu-Naに対して「無難」と批判するのはほとんど自らの無知を晒すような指摘だろう。確かにKim Yu-Naはトリプルアクセルや4回転を跳ぼうとはしていない。だが、それはほとんど全ての女子選手がそうであって、トリプルアクセルや4回転は本当に限られた選手しか挑戦していない。トップ選手が4回転を跳んだことがあるような男子とは次元が異なる。
むしろ女子における挑戦は3回転3回転のコンビネーションジャンプだ。トリノではフリーでこれをきちんと決めた選手が出なかった。金メダルを取った荒川静香は回避した。
3回転3回転でもトゥループトゥループであれば何人かの選手が今回挑戦して決めている。これは基礎点が8.00で、例えばトリプルルッツ+ダブルループの7.50と比べても大きな差がない。今日のフリーでこれ以外の3回転3回転を狙ったのはアメリカのRachael FlattとKim Yu-Naの二人だけ。Flattは最初のジャンプが回転不足となって跳べていない。一方、Kim Yu-Naはこれ以上ないくらいに完璧に跳んでみせた。

Kim Yu-NaのGOEはフリーでは17.40と非常に大きかった。女子フリーでは12の要素から成るので平均が1を越えている。ただ今日は全体的にGOEがやや高めだったのは事実だ。2つの要素で完全なミスがあった浅田でも8.82だった。今日のGOEの出し方からすれば決して高すぎとは言えない。当然、世界最高点を出すためにGOEが高めだったのではという勘繰った意見もあるだろうが。

もし浅田にミスがなかったらどうだったろう。大きなミスは3連続ジャンプの最初が回転不足を取られたこととトリプルトゥループがシングルになったこと。そして、それで流れが滞ったことだ。トリプルフリップのダウングレードは-4.18。トリプルトゥループは-3.96。この二つはGOEも合わせて-0.48。GOEが+1.00だとすれば10.62プラスできる。また、構成点でも減点があったと予想されるのでそれも合わせると12点程度は増えただろう。だが、それを足してもKim Yu-Naのフリーの得点には届かない。恐らくショートプログラムより少し多い差が付いただろう。
ジャンプ以外の要素のGOEはKim Yu-Na5.4に対して浅田は6.1。基礎点は互角なので浅田が上回っている。スケーティング技術は間違いなく世界一と言える。ただKim Yu-Naに大差をつけるほどではない。やはりジャンプの質の差となる。Kim Yu-NaやカナダのJoannie Rochetteのジャンプがジャッジに好まれるタイプのジャンプだと言うことだ。それを贔屓と取るか基準と取るかは判断が分かれるかもしれないが、この傾向自体は今に始まったことではなく以前からあったものだ。
GOEを狙うジャンプを跳ぶのか、それをせずに別の方法で得点を稼ぐのか。浅田は後者を選んだ。その選択を間違っているとは思わない。選択を信じて戦った浅田は素晴らしかった。自分の武器であるトリプルアクセルを2回見事に決めてみせた。だが、完璧な演技をしたKim Yu-Naには及ばなかった。

ネット上で様々な意見が飛び交うのは仕方がない。それを許す状況もある。だが、なぜこれが世界最高の演技なのか虚心に見て欲しいと思う。要素と要素の繋ぎ、ジャンプの速度と正確性、曲との同調、細部まで非常に丁寧に作られた構成。トリノの荒川の演技も素晴らしかったが、ジャンプに関してはKim Yu-Naはそれを遥かに上回っている。

3位のRochetteは3つの要素でマイナスのGOEが付いた。回転不足が取られず、構成点が高かったためフリーだけなら浅田とわずか0.44の差だ。地元ということでやや高いかなと思わせる点数ではあったが、母親の突然の死という不幸を乗り越えた素晴らしい演技であったことは間違いない。

4位に16歳のアメリカ長洲未来が入った。ショートプログラムでもほとんどミスのないいい演技だったが、フリーではそれ以上の演技だった。ジャンプで勝負するというよりも完成度で勝負するタイプなのでまだまだ伸びそうだ。二つのシークエンスがレベル2判定だったので、ジャンプ以外に磨きが掛かればソチでは金メダル候補になる可能性も高い。

5位に安藤美姫。ショートプログラムではKim Yu-Naより高得点の3回転3回転を狙ったが失敗した。フリーでは挑まなかった。全体に悪くはなかったが、跳び抜けて惹きつけられる要素もなく、手堅い演技となってしまった。トリノでの失敗があったゆえかもしれないが。

6位はフィンランドLaura Lepisto。フリーだけならメダリストたちに続く4位。目立ったミスもなく非常に完成度の高い演技で、最終組を除くと最も印象深いものとなった。Interpretationも8.00と高い評価を受けた。

7位はFlatt。3つの連続ジャンプのうち2つで最初のジャンプが回転不足と取られたのが残念。緊張感の高い最終組第1演技者としてはよく頑張ったと思う。

8位は鈴木明子。フリーだけなら7位で120.42は素晴らしい得点だ。トリプルフリップがダブルになり、トリプルサルコウも回転不足になってしまったがそれでもこの得点ということはそれだけ内容が素晴らしかったから。彼女らしい溌剌とした演技で8位入賞を決めた。

金 Kim Yu-Na(韓国)
銀 浅田真央(日本)
銅 Joannie Rochette(カナダ)


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