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奇想庵@goo

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感想:『MM9』

2010年03月17日 19時47分48秒 | 山本弘
MM9MM9
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-12


自然災害として怪獣が存在する世界。気象庁でその対策を担当する部署「気象庁特異生物対策部(気特対)」の活躍を描く。とはいえ、実際に怪獣と戦うのは自衛隊の仕事。気特対は避難勧告や作戦立案などを担当する。
平成版ガメラやパトレイバーあたりからリアリティのある怪獣ものという切り口が登場し、ジャンルとまでは言えなくとも珍しいものとは感じなくなった。そのため本書も新鮮味があるとは言い難い。SFとしての理論付け、特に人間原理の使い方は面白かったが。
キャラクターは公務員色が強い。同じ公務員色のあるパトレイバーと比べても顕著で、地味な印象だ。リアリティはそれにより確実に強まったが物語としては淡白な印象を強めることとなってしまった。

SFとしてはケレンに溢れ雑学の塊のような作品に仕上がっている。巨大な幼女、しかも全裸とか映像化できないじゃん!と思わせるエピソードなどひねりも効いてはいるのだが、エンターテイメントとしては盛り上がりに欠けるのも事実だろう。『地球移動作戦』のようなストレートな熱さがもう少しあっても良かったのではないか。
以下ちょっとネタばれ。
最終章にクトゥルー神話が出てきて笑った。このノリで☆ひとつ追加(笑)。ただし、『這いよれ!ニャル子さん』を読んだあとなのでインパクトはそう強くはなかったが。(☆☆☆☆☆)




これまでに読んだ山本弘の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

アイの物語』(☆☆☆☆☆)
地球移動作戦』(☆☆☆☆☆☆☆)


感想:『地球移動作戦』

2009年12月02日 00時58分22秒 | 山本弘
地球移動作戦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)地球移動作戦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2009-09


くそっ!面白いじゃねえかっ!!!

なんて、はしたない言葉が最後のページを読み終えた瞬間に喉から出てしまった。

地球に接近する巨大な星。人類の危機。これ以上ないくらいオーソドックスな物語。
もちろん、細部は様々なSF的仕掛けが繰り広げられている。対象となる星は人間には手を出せない。SFのお約束タキオン粒子とそれを利用した未来予知。『アイの物語』でも描かれていた人工知能と人類との共存を巡るやり取り。
ベタな話を手垢の付いた設定で描いただけのはずなのに。

キャラクターだってお世辞にも深みがあるとは言えない。いかにもなキャラクターは多いし、計画への反対者が典型に陥ってるきらいはある。主人公の魅波がこの物語を背負っているとまでは言えないだろう。
それでも、それなのに、悲しいかな、クライマックスで心を揺り動かされた。

『さよならピアノソナタ』の感想にも書いたように、小説で音楽を表現することは非常に困難だ。本書の冒頭にも歌が描かれているが、パッとしなかった。
それが。
「突撃行軍歌ガンパレード・マーチ」以来かも、と思わず感じてしまった。曲なんてなくても、詩が脳を揺さぶり歌が耳に届く。そんなことは。

細かな不満は全て吹っ飛ばされた。読んでる途中ではいろいろとあったのに。それが、エンターテイメントの真髄なのかもしれない。文句なしに、ただ面白かったと読み終えて思えれば他には何もいらない。

それでも、一つだけ。

結城ぴあのはどこ行った?w

伏線と思っていたのに、回収されることもなく終わってしまった。別作品で語られるのだろうか。それだけが最後までちょっと心残りだった。ホント些細な事なのだけれど。(☆☆☆☆☆☆☆)




これまでに読んだ山本弘の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

アイの物語』(☆☆☆☆☆)


感想:『アイの物語』

2009年10月15日 23時07分26秒 | 山本弘
アイの物語アイの物語
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2006-06


山本弘を読むのは多分初めて。7編の短編の間を物語で紡ぐ作品。こうした形式の小説は珍しくはないが、インターミッションの物語では、これらの短編が読み聞かされているという設定となっていて、作品の感想が語られたりしている。7編のうち5編は複数の雑誌に掲載されたもので、ある程度の共通性は持っているがインターミッションで語られる物語とはかなり異なっている。残り2編は書き下ろしで、特に最後の表題作はインターミッションと直接の繋がりを持った作品である(語り部が過去を語った形式)。
まずは各短編の感想から。

「宇宙をぼくの手の上に」はネット上で創作活動をしているグループが舞台。リレー小説によって気持ちを伝えようとするコンセプトは面白いが、ちょっとというかかなり出来すぎな話。現実逃避うんぬんも含めて、詰め込みすぎた印象が残る。

「ときめきの仮想空間」はより進化した『セカンドライフ』のような世界が舞台。いい話には仕上がっているが、それ以上にあまりにも「ありえない感」が強かった。出会い系の世界ってことなのか……。

「ミラーガール」は人工知能搭載のゲームの話。キャラクターと会話を重ねていくことでAIとして成長し、やがて……という展開はベタではあるが面白かった。

「ブラックホール・ダイバー」はSFらしい秀作。キャラクターは良かったが、「停滞・下降する人類」は安直な印象を受けた。

「正義が正義である世界」はヒーローアクションのような仮想現実世界が舞台。相対化の描き方が秀逸で非常に印象深い作品に仕上がっている。タイトルもいい。

「詩音が来た日」は介護アンドロイドの話。AIの成長と、人類への視線が巧みに描かれた。他の作品を読んでも感じるが、この著者は「情」よりも「理」が勝った展開を見せることが多い。この作品はもう少し情緒的に描けば泣ける名作足りえたかもしれないが、そうならないところに著者の個性があるとも言えるだろう。

「アイの物語」は前述したようにインターミッションと同一世界観。インターミッションの過去を描いている。真のAIであるTAIによる言語の創造はとてもユニークに感じた。

人間は全て認知症であるという認識や不完全な知性しかもたない人類の衰退といった視点は悪くはないのだが、同時に人間・人類に対する甘さも感じてしまう。新井素子や有川浩に感じる、人類に一度絶望した後に歩き出す潔さのようなものが感じられない。例えば、アイの物語で言えば、無抵抗を標榜したTAIを殲滅するのが人類の性だと思うかどうか。絶望しても人であることを捨て切れないからこそ立ち上がる力強さを感じない。人という種は自滅はしても簡単には主の座を明け渡そうとはしないだろう。TAIロボ・マスターが仮想虐待を見て怒り狂ったり、アンドロイドと性産業との結び付きを描かないのもキレイゴトに見える。「理」は大切だが「情」を捨て切れないのが人だ。
『彩雲国物語』も「情」より「理」を優先させる。だが、想いをこれでもかと溢れさせながら、それでもなお、「理」に従おうとする。確かにAIには「情」はないかもしれない。だが、もっと想いを描かなければ「理」は際立たない。絶望が必要だという訳ではない。バランスが必要なのだ。本書は優れた作品だと思うがゆえに、その点が残念だった。

もう一つ本書を読んで連想したもの、それは『高機動幻想ガンパレード・マーチ』である。自身のキャラクターを除く主要キャラクターはAIによって行動が決まる。そのAIはプレイヤーの働きかけだけでなく、AI同士のやり取りによっても変化を見せる。AIキャラクター二人を恋人同士にする仲人プレイなんていうプレイスタイルもあった。
2周目からはその世界への「介入」を行っている存在がプレイヤーに接触してくる。つまり、プレイヤーはプレイヤーキャラクターに介入している存在としてゲームへの関与のレベルが変化する。介入者との会話によって世界の謎へと迫っていく。
更に、公式サイトの掲示板で世界の謎を解くゲームが行われ、その結果としてSS(ショートストーリー)が公開された。ゲーム内世界である第五世界の危機を救うために、プレイヤーのいる世界である第七世界から想いが贈り物となって届けられるという物語。この謎解きに参加した人々の想いがフィクションとして描かれた。
AI、インターネット、メタフィクション、これらは「ガンパレ」を巡る物語の一部である。様々なレベルで本書を読んで「ガンパレ」を連想した。個々の方向性は大きく異なるが、当時の思い出が甦り、懐かしく感じた。