酔眼独語 

時事問題を中心に、政治、経済、文化、スポーツ、環境問題など今日的なテーマについて語る。
 

「ネットでの名誉毀損」考

2010-03-18 06:14:30 | Weblog
 個人が自分のHPに書き込んだことであっても、名誉毀損罪の要件を狭める理由にはならない。最高裁がこんな新判断を下した。

 《インターネット上に飲食店に関する虚偽の内容を書き込んで中傷したとして、名誉棄損罪に問われた会社員橋爪研吾被告(38)の上告に対し、最高裁第1小法廷は16日までに、棄却する決定をした。一審の無罪判決を破棄し、罰金30万円とした二審判決が確定する。決定は15日付。

 白木勇裁判長は「確実な資料や根拠に基づき、真実と信じる相当な理由がある場合に限って無罪になる」とした名誉棄損事件の判例基準に触れ、「ネット上の情報でも、ほかの表現手段を利用した場合と区別して考える根拠はない」と指摘。

 その上で、橋爪被告が一方的な立場から作成された資料などを根拠に書き込んだ点を挙げ「被告の誤信には相当の理由がない」と判断した》=共同=。

 1審東京地裁での無罪判決が話題となった「ラーメンチェーン名誉毀損事件」である。最高裁判決を要約すれば「ネット上であっても不確かな情報で他人の名誉を傷つけてはならない」ということだ。一見極めて当たり前に映る。

 しかし、この論理はかなり危うい。個人の情報発信について、その正確性の担保をマスコミと同様に求めているからだ。こんな考え方がまかり通ると、素人は社会現象についての批判ができなくなる恐れがある。新聞やテレビなどを頼りに、ブログなどを書いている身としては、おおいに気になる。

 極端な話、メディアの報道が間違っていたケースで、ネットでそれを流した人にも名誉毀損の罪が及ぶ可能性がある。共同通信が配信した記事を載せた地方紙が名誉毀損を問われた裁判を考えればいい。

 この最高裁判断で一番張り切っているのが朝日新聞というのがおかしい。17日付け(12版)では一面トップと3面で大々的に報じた。報道の趣旨は「ネットだからと安易な気持ちで書き込めば、内容によっては刑事責任を問われる」「情報発信には責任が伴うという警鐘を鳴らした」ということである。

 大朝日が言論の自由に関してこれほど「抑制的」な報道をするとは驚いた。18日付けの社説でも最高裁決定の危険性には全く言及していない。これで言論機関なのだろうか。

 《自由な発言には責任が伴うことを自覚しないといけないのは、ネット上でも同じことだ。次世代を担う子どもには、あふれる情報を読み解き、正しく発信する能力を身につけさせたい。

 ネット空間を、秩序ある公共の場にする。それは私たちの社会のとても重い課題だ》=朝日(社説結語部分)=。

 刑事責任を問うことと自由な言論の責任はイコールなのか。この件では民事でも争われており、そこでは名誉毀損を認めている。民事と刑事で責任の範囲が分かれることがあるのは理解できる。問題は刑事責任まで問うかどうかだ。一般論としてネット上であっても斟酌する理由がないとするのは甚だ疑問である。

 今回のケースでも、書き込みの悪質性、与えた影響などが総合的に検討されるべきであって、これを「その他大勢」に敷衍しようなどというのは、メディアの悪意というべきだ。

 朝日であれ、産経であれ、ネットでは大きな攻撃対象になっている。無視した振りをしているが、気に掛けていることはそれとなく分かる。朝日がこんなに大きくこの問題を報じたのは「事実に基づかない中傷は刑事事件になるぞ」と警告したかったためではないか。

 最低限、社説では対抗言論の法理と最高裁決定を比較考量し、ネットへの書き込みを萎縮させることのないよう注意喚起すべきだった。最高裁や朝日の言うことが正しいとすれば、「何も知らない素人は、難しいことに口を挟むな。ネットへの書き込みなど論外」ということになりかねない。

 
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