脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

鳥取戦記 ~地域リーグ決勝大会1次ラウンド後記~

2008年11月25日 | 脚で語る地域リーグ
 おそらくこれほど濃密に勝敗のコントラストが描かれる3日間はない。何しろその1試合1試合に背負うべきものが大きすぎる。激戦の向こうにはJリーグ昇格のために避けては通れないJFLの舞台。厳しい審査をクリアしなければいけないが、シーズンを通しての戦績が問われるJリーグへの道と違って、短期決戦でJFL昇格か否かの決着をつける全国地域リーグ決勝大会は、予想を覆す展開をもたらしてくれる。Jリーグ入りを標榜する地域クラブの1年間の軌跡は、ほんの一瞬で木っ端みじんに砕け散ることがあるのだ。今季もまた、この大会は、容赦なくサッカーの残酷な一面を実感させてくれた。

 

 4会場、3日間に及ぶ1次ラウンドの戦いの結果、28日から石垣島で行われる決勝ラウンド進出チームは次の通り。

・ホンダロック
・V・ファーレン長崎
・レノファ山口
・FC町田ゼルビア

 昨季、決勝ラウンドを熊谷に観戦しに行った際には、バンディオンセ神戸(現:加古川)だけが涙を呑んだ。これまで関西リーグの戦績で一度も上を譲ったことのないMi-O びわこKusatsu(現:MIOびわこ草津)に先を越されたのだ。昨季この大会でJFL昇格を掴んだ1チームの岡山などは、既にJリーグ入りの切符すら掴もうとしている。未だ地域リーグに取り残された彼らとの差は歴然だ。

 今回は、1次ラウンドの観戦をチョイスした。決勝ラウンドでJFL昇格が決まるのは、今季のJFLから何チームがJリーグ昇格を果たすかによる。昨季と同じく今季も3チームの昇格が濃厚とされる中、個人的には、4チーム(×4グループ)中1位のみが決勝ラウンドへの進出を許されるという1次ラウンドのレギュレーションは、決勝ラウンド以上の熾烈さを有していると考えたからだ。年々、将来のJリーグ入りを目指すクラブが増える中で、このせめぎ合いは実にスリルに満ち溢れている。

 今大会、鳥取で行われた1次ラウンドには、本命のFC町田ゼルビア(Dグループ)、そしてNECトーキンの出場辞退によってチャンスを掴んだ松本山雅FCがいた。町田こそ同居する他チームに比べて、実力的に優位であったが、松本山雅は、この大会の常連である東海リーグ1位の静岡FC、東北リーグ1位のグルージャ盛岡、中国リーグ1位のレノファ山口といった強豪と相まみえることになった。では、今回の鳥取での3日間で個人的に思うポイントを備忘録として列挙しておく。

・レノファ山口の強烈なインパクト

 

 今回の組み合わせでも全くのノーマークであったレノファ山口のサッカーは、観客を震撼させるものがあった。人もボールも良く動き、攻守において非常にチームワークがとれていた。圧倒的な得点力やポゼッション力こそないものの、試合を先行されても決して焦らない落ち着きすら有していた。右サイドのMF福原が積極的に攻撃に絡み、共に1得点ずつマークした中央の戸高、大野というMF2人がハードワークを厭わず攻守のキーマンとなる。守備から攻撃への切り替え時に多用されるダイレクトプレーには舌を巻いた。
 また、後半途中から決まって投入されるジョーカー兒玉が、小柄ながらテクニックとスピードに溢れており、運動量の落ちた相手に対して効果的だった。
 それほどハイキャリアな選手も有しておらず、ここまで質の高いサッカーができるのはなぜか。強烈なインパクトを残した彼らの決勝ラウンドでの戦いぶりは注目だ。

・質の高い企業チーム矢崎バレンテ

 

 町田とDグループに同居した東海リーグ2位の矢崎バレンテ。昨季の全社において準優勝を果たしたことでその名を轟かせたが、東海リーグでは、本命である静岡FCの陰に隠れがちであった。しかし、今大会で見る限り、サッカーどころ静岡の名に恥じない高品質なチームだった。
 1次ラウンド3試合で6得点を挙げたFW井口がチームの核。ドリブルで積極的に仕掛け、ミドルレンジからのシュート精度とその威力も備えたストライカーは、町田も含めた他チームの脅威になった。3-5-2のトップ下で攻撃のタクトを振るったMF渡邉に加え、途中から出てきて相手守備陣を掻き回すMF荻田の存在が光った。3バックの軸である大森、松尾といったDF陣も身体能力が高く、町田との最終戦はPK戦までもつれ込んだが、個人的には納得の結果だった。

・意外に苦戦した町田

 

 矢崎とのPK戦を制し、石垣島での決勝ラウンド進出を決めた関東リーグ1位のFC町田ゼルビアだったが、今季の公式戦ではわずか2敗しかしておらず、先行イメージから個人的にはもっとできると思っていた。
 初戦こそ、佐川急便中国相手に7得点という猛攻を見せたが、続くノルブリッツ北海道戦は相手の堅い守備に前半ほとんどチャンスを作れず。MF酒井の技ありロングシュートで何とか1-0と辛勝したが、高いボールポゼッションの反面、攻撃の手数に物足りなさを感じた。最終戦の矢崎戦は、相手に先行される苦しい展開で、88分に何とか同点に追い付いた。勝負強さは持ち合わせているが、これが決勝ラウンドになるとどうか。もしかしたら町田は苦戦を強いられるのではとも思ってしまう。
 しかし、かつてV川崎、京都、G大阪、草津などで活躍したMF山口のプレーを久々に見られたのは良かった。矢崎戦の同点弾を呼び込んだ左サイドからのクロスは見事。その他、コーチ兼任のFW竹中やJリーグ経験選手としてチームを引っ張った主将酒井などは、昨季の熊谷で、スタンドから悔しそうに決勝ラウンドの戦いぶりを観ていたことを記憶している。それもあってか、今回、彼らがリベンジを果たした喜びはスタンドにもひしひしと伝わってきた。
 これらベテランと若手の融合するチームをまとめた戸塚監督には“JFL昇格請負人”として、町田をJFLまで引っ張っていってもらわなければならない。PK戦を制した直後のチームとサポーターの涙が本当に印象的だった。

・松本山雅FC、半歩前進

 

 

 やはり、今回の1次ラウンド最大のハイライトは、松本山雅の敗退だろう。連日、とりぎんバードスタジアムをホームさながらの雰囲気にした大勢のサポーター。メインスタンドまで完全に松本山雅カラーだった。
 北信越リーグの今季の戦績を見ても明らかなように、松本山雅の問題は得点力だった。軸になるFWは柿本しかおらず、毎試合コンビが変わった。Jでの経験も豊富な柿本は相手チームの徹底マークに遭い、得点機を思うようにものにできなかった。ここに松本山雅が勝ちきれなかった要因があるように思える。
 しかし、連日の劇的な勝利にサポーターとチームは勢いづいていた。本職のCBからボランチに上がって起用された三本菅が2日連続で決勝ゴールを挙げるなど、このままの勢いで決勝ラウンド進出を決めてしまうかとも思えた。
 ところが最終戦でもたらされた残酷な結末。試合後、帰路をご一緒させて頂いたサポーターの方からは「昨季から半歩前進した」とポジティブな声を聞いたが、それでも悔しい敗戦だった。AグループでライバルのACパルセイロ長野が敗退したのがせめてもの救いか。とにかく北信越リーグの活況ぶりとレベルの高さは、この大会の勝負には直結しないということだ。不条理ながら、彼らの敗戦は最大のドラマで、サッカーが秘める不確定要素の怖さを再確認させてくれた。