脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

ユース昇格組が奏でるスペクタクル

2008年11月21日 | 脚で語るガンバ大阪
 アジアチャンピオンの座に輝き、中3日で迎えた天皇杯の緒戦で、J2甲府を相手に苦戦しながらも5回戦進出を果たしたG大阪。来季のACL出場権が現段階で全く保証されていないことが過酷だが、ここらで、新世代の布陣にスイッチしていくタイミングではなかろうかという気もしなくはない。

 かねてから鳴らされているこの警鐘にG大阪は、二の足を踏まざるを得ない。何せここ数年サポーターを心酔させたスペクタクルなサッカーと、それによってもたらされたタイトルは、現状のメンバーの貢献度抜きには語れないからだ。しかし、対照的に将来が不安視されるのは、特にクオリティの高さが際立つ中盤を筆頭に、若手選手との実力差が顕著である点。若手主体にスイッチしていく際に伴う多大なそのリスクは常に存在するが、チームがある程度結果を残していることで、盲目的になっている。あえてそれを見つめて、ぶつかっていかなければ、将来的にG大阪のサッカーから“スペクタクル”が潰えてしまうことにもなりかねない。

 その点を考えると、ユースからの昇格組は正念場だといえるだろう。現在のG大阪の屋台骨となっている中盤の橋本、二川以降、突出した下部組織からのヒット作は安田理ぐらいか。今季はその安田理の不在時に下平が健闘したが、G大阪がクラブ力を付けてきた今、移籍による加入選手の台頭にユースからの昇格組は完全に押されているのが実情だ。
 特に安田理と同期である“G6”と称された87年組は、その安田理以外、伸び悩んでいる。横谷と伊藤は現在J2愛媛FCにレンタル移籍中だが、チームに残っている平井、岡本、植田は出場機会を失っている。今季は、平井がナビスコ杯準々決勝1stlegで値千金の決勝弾を決める活躍を見せるも、それ以降は、リーグ戦中盤、勝ち星に見放された時期に出場機会を掴んだ岡本同様、登録外になることが多い。植田に至っては未だに公式戦出場機会が与えられず、今季は厳しいオフを過ごすかもしれない。

 彼らがトップに昇格した時期は、橋本、二川がチームのレギュラーとなり得た時期とは事情が違う。橋本、二川がトップチームで戦力となり出した99年当時は、下位ながらも次世代を模索した時代だった。それより以前からチームの確固たる基盤となっていた宮本(現ザルツブルグ)、97年に高校生ながら頭角を現した稲本(現フランクフルト)、新井場(現鹿島)を台頭に、ユース出身者がイニシアチヴを握らなければ、凋落の一途を辿らざるを得なかった大きな転換期だった。チームの核となるべき強靱なメンタルを有する選手など資金的にも獲得できず、やってくる外国人選手は政権交代と共に、あっさりお払い箱になってしまうような時期だった。しかし、その中でこそ、彼らヤングエイジたちは、現在のG大阪の基盤ともなるべきサッカースタイルの構築に大きく寄与したのである。

 その意味では、この大きな転換期をJ2に転落することなく堪え忍んだ早野前監督の功績を称えることも一つだが、主体性を伴ったユース昇格組の奮起がチームの全てだったとも形容できる。強豪チームに生まれ変わろうと喘ぐG大阪の中で、彼らがもたらした功績は大きい。
 その時代と比べようもないほど、G大阪を取り巻く状況は変わった。今や世界に挑戦できる権利さえ得たのだ。しかし、そこで時折感じてしまう将来への不安は払拭できていない。いや、むしろ日増しに増幅させられているかのようだ。最早、Jリーグ屈指の下部組織でさえ、現在のレギュラーメンバーを脅かす人材創出は至難の技なのか。

 その答えは、宇佐美貴史が握っているのだろう。わずか16歳にして、来季からのトップ昇格を決めたG大阪の“至宝”だ。おそらく、彼は現在のG大阪が有するスペクタクルを次世代のものへと導いてくれるだろう。
 資金力にモノを言わせて、他チームから有力選手を獲得してくる手法が決して間違っているとも思わないが、本当に大切なのは、自らの組織内で育成した選手がそのチームの看板になっていくことだ。将来、海外も含めて、偉大なサッカー選手として、大いに羽ばたいていくのもアリだろう。
 ユース昇格組が主体性を持って戦っていけるか否か、ピッチの中だけでなく、この物語においても、G大阪にはスペクタクルが詰まっている。