脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

メツとカタールの憂鬱

2008年11月20日 | 脚で語る日本代表
 15年前の悪夢がつきまとうドーハの地で、日本がカタールを3-0と一蹴。2010年南アフリカW杯に向けて、大きな1勝を上げることができた。

 先週行われたシリア戦の緩さもあって、有識者を中心に試合前から悲観的だった今回のカタール戦。しかし、蓋を開けてみれば杞憂に終わった。90分間、常に日本がイニシアチヴを握る展開に安心して観ていられたのが正直なところであるし、得点を挙げた田中達、玉田を筆頭に前線の歯車が噛み合ってきたのは事実だ。不安視されていた最終ラインも無難に戦い抜いたといえるだろう。

 これで当面試合は無く、来年1月にアジアカップの予選がスタートして、2月にオーストラリアとの大一番を迎えるわけだが、何とかこの良い流れを持続して欲しいのは正直な感想だ。怪我の中村俊らコンディションが思わしくない選手を抱えるだけに、更迭を免れた岡田監督とチームには少しリフレッシュをしてもらいたい。

 さて、シャーデンフロイデとも形容すべきか。結果的に快勝で終えたカタール戦を振り返ると、敵将の今後を心配する余裕すら出てきた。UAEから100万ユーロとも報じられている莫大な違約金を代償に、カタールへやってきたブルーノ・メツに対して、今頃地元メディアがどう酷評すべきか頭をフル回転させているのだろう。
 それもそのはず、既にセネガルをW杯ベスト8に導いた6年前の指揮官のカリスマ性が失われているのは、19日号のエルゴラッソでも特集されていたばかり。日本より1試合消化数が多いにも関わらず、勝ち点4で、2強争いから後退することになった。イスラム教に改宗し、母国フランスを離れて約10年になろうとするかつてのカリスマ指揮官は、この地で中東における自身の監督キャリアに最も華々しい未来を描いていたのだろう。いや、描かされていたのだろうか。とにかく、今回の敗戦を受けて、ドラスティックにその進退さえも懐疑的になってきたといえる。

 カタールは現在、観光産業を中心とした国策にスイッチを試みており、石油や天然ガスなどの資源に依存した経済体制を危惧している。ハマド・ビン・ハリーファ・アール=サーニーが現在の首長に就いてから13年間、3度のスポーツにおける国際大会を成功させ、彼が掲げる国内運動競技発展の集大成をこのメツ率いる代表チームに託している。今回、試合が行われたアルサッド・スタジアムも綺麗に整備されたサッカー専用スタジアムで、15年前に日本代表が悲劇を味わったアルアハリ・スタジアムと比べると遙かに立派だ。続々と国内でプレーする外国人選手を帰化させてまで、世界に羽ばたこうとするカタールサッカーの希望が、今回の日本戦で潰えた訳ではないだろうが、メツに懸けられた期待を考えると、国民の失望は察して余りある。

 中東の地に魅せられたメツと、彼を使って、サッカーでも自国の力を誇示していきたいイデオロギーに距離が生まれつつあるカタール。半年後に日本でもう一度対戦する際には、もうメツはおらず、それに代わって世界的な知名度を誇る指揮官がベンチに鎮座しているのかもしれない。