杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

海よりもまだ深く

2016年05月23日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2016年5月21日公開 117分

母・淑子(樹木希林)は苦労させられた夫を突然の病で亡くしてからは、団地で気楽な独り暮らしをしている。15年前に文学賞を一度獲った売れない作家の長男・良多(阿部寛)は、“小説のための取材”だと周囲にも自分にも言い訳しながら、今は探偵事務所に勤めている。元嫁・響子(真木よう子)はそんな良多に愛想を尽かして離婚。良多は11歳の息子・真悟(吉澤太陽)の養育費も満足に払えないくせに未練たらたらで、響子を張り込み、彼女に新しい恋人ができたことを知ってショックを受ける。ある日、母の家に顔を合わせた良多と響子と真悟は台風で帰れなくなりひと晩を共に過ごすことになるが・・。


「海街diary」「そして父になる」の是枝裕和監督が、阿部寛と「歩いても 歩いても」「奇跡」に続いて3度目のタッグを組んでいます。

良多の父親は稼ぎを趣味(ギャンブル?)注ぎ込んで家族に迷惑をかけるような人だったようですが、そんな父親みたいにはならないと反発しながらも、気付けば同じ生き方をしています。探偵して得た情報を悪用した金を競輪につぎ込んだり、元嫁を勝手に張り込んだり、作家として大成しないのは時代が悪いのだと逃げている彼は、大人になりきれない男を絵に描いたような人間です。

でも、そんな頼りない息子でも、やっぱり可愛いのよね~~母は
夫に散々苦労させられ(でも離婚もせずに最期まで看取っています)、ようやく独りになって、まだまだ人生これから!と思っているのに、頼りになる筈の長男は嫁に三下り半を突きつけられ、孫の養育費さえ満足に支払ってない様子。嫁に非はないと頭ではわかっていても、ついつい、「女が外で働くと・・・」みたいな嫁批判の目線で見てしまう。息子は被害者なのよ~的な台風の夜に強引に泊まっていったらと勧め、元嫁と良多を同じ部屋に布団を敷いたのも、復縁に望みを託した親心なんですね。

母と息子のやりとりがまた、どこにでもいる普通の親子の日常を鮮やかに切り取って見せていて秀逸です。
カルピスを凍らせて作った「アイス」にはラップもしていないから冷蔵庫臭がするし、分量けちって薄めだから滅茶苦茶硬いし 冷凍してあったカレーが半年前のものと知り文句を言う良多に、元妻と母が「だから男は・・」と冷ややかな目線を向ける場面など「あ~~あるある!」というエピ満載なのも

姉(小林聡美)とのやりとりも、凄くリアリティがありました。
どちらも年老いた母を心配はしているし、親孝行もしたいと思ってはいるのだけど、現実には年金を当てにしているところとか・・
良多が母のへそくりの場所の話をした伏線から、天袋で見つけた「ソレ」を開けると「残念でした!」と書かれた姉のメッセージにガックリするシーンも笑えます。

良多の後輩の町田(池松壮亮)は、彼に恩義があるようで、汚れ仕事やギャンブルでの借金も快く引き受けてくれますが、若い町田がそこまで良多をフォローする理由が見えて来ないので、このエピは削っても良かったような・・・(それでは池松君の出番がないから困るか)町田自身が幼い時に別れた父親との思い出があるからこそ、良多の執着に理解を示しているんでしょうね

探偵事務所の所長(リリー・フランキー)が良多の恐喝行為を知り、穏やかに(でも決然と)叱責する場面が印象的です。
元妻と息子に執着する良多の心情を理解した上での愛ある説諭なんです。

台風の夜、息子と元妻と三人で、自分が子供の頃父親と一緒にした「冒険」を擬えた時、良多はもう元には戻れないのだと、そして「大人になる時」が来たことを悟ったのね。

物語の舞台は西武池袋線沿線の清瀬や、本川越あたり。
緩やかに時代に取り残されている団地の佇まいが、物語の空気感にマッチしています。

樹木希林さんと阿部さんの演技がとても自然で、本当にこういう親子いるよね~!と思わせてくれます。
思い描いていた未来とは違う現在。それは誰もが生きている人生そのものです。人は皆、どこかで折り合いをつけながら、それでも精一杯楽しく過ごそうと頑張っているんだよね

若い人にはピンと来ないところもあるかと思いますが、40代以上の方々には間違いなく心に響く作品だと思うな

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