AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

S先生とのQ&A 古典と經絡に関する私の見解

2011-01-07 | 総論

S先生(53歳男性)は、臨床経験3年の鍼灸師で、首都圏で開業している。私のブログの熱心な読者であり、時々メールで質問してくる。ここでは、中医学と經絡に関する私の見解が記されている。このたびS先生が転載の許しを得たので公開する。

1.經絡について

S先生の質問
年末のお忙しい中ブログで経穴図を公開され、そのご尽力に敬意を表します。
1)ところで今年は小生にとって○○先生の解剖学に立脚した筋肉への刺鍼、そして似田先生の筋肉に加え神経そのものへの刺激も意図する方法に触れ、これらをまがりなりにも模倣するに至り最近は経穴の位置そのものにさほど拘らなくなっている自分に気づきました。

2)それまでは、中医といってもほぼ臓腑弁証に基づいた本治として臓腑関連の兪墓穴やら瘀血、気滞には何何穴との組み合わせ、はたまた順経治療として耳鳴りであれば足臨泣・中渚などを補法・瀉法も取り混ぜ標治に合わせて実施しておりました。
それ故に正確な刺鍼点(何が正確なのか議論百出ですが)経穴の位置に気を使っていた積もりでした。

3)しかし、臨床においては特に筋肉外科系症状における自分の治療法の進化とともに経穴図もさして重要な位置を占めないと思うようになってきたのですがこの点似田先生はいかがお考えでしょうか。

4)かつて専門学校で学んでいた頃に経絡治療を標榜するある先生が”極論すると鍼師にとって経穴が唯一の飯の種であり、これを取ったら何も残らない”と言っていたのが当時妙に納得がいったものでしたが、この受け取り方も自分のキャリアとともに変化しそうです。

5)また、経穴とは体表、あるいは体表近くにある経絡上の内臓にも影響を及ぼす反応点と理解するも、時に中医では”骨の裏に深く経絡が流れるため、骨の際にある経穴から骨を超えて斜めに骨の裏側目指して刺す”なんてことも言われますが、似田先生は経絡と経穴の位置関係に関しどのように理解すべしとお考えでしょうか? 
深い場所にあり体表から探れない脈はそもそも経絡ではなく経別になるのでは?とも思います。また一般的には経穴のすぐ真下に経絡があると理解されていると考えるのですが。
 
似田の返答

1)經絡、経穴図はあまり必要ないですが、局所解剖学的要所として刺激ポイントとしての経穴図は必要と考えます。刺激点をカルテに記入したり、他の先生がたとコミュニケートする記号として、経穴名も必要となるでしょう。

2)針灸治療は、実用の医学である→治療費は安いことが条件→短時間治療になる→形式的な治療穴を省略して実際に効果のある穴のみを選択して刺激する。以上の考え方の変化が根本にあります。

3)たとえば臨床を初めて間もない頃、耳鳴りに中渚や液門をとったが効果がないことを知りました。内臓治療といっても、病院など現代医学的治療の場に放り出されると、鍼灸師は無力である体験をさんざんしました。

4)鍼灸師という身内だけで通じる話は無意味であり、医療の場でその専門性を発揮し、その存在価値を他の医療部門スタッフからも認められるようになる必要があるということです。

5)經絡を使わない治療と、經絡を使った治療とで、その治療効果に差はあるという討論に意味があるとすれば、經絡を使った方が有効率が高いという結論があることが必要ですが、実際はそうなっていません。代田文彦先生は、古典治療は、せいぜい気の病しか治せないとの見解をとっています。
オッカムのカミソリ:經絡という言葉を使わずとも、その事象を説明できるならば、もはや經絡という概念は必要ない。。物事を単純に説明できる方が正しい意見である。
 

2.針灸古典理論について

S先生の質問
1)(前略)ところで現代針灸派を称する似田先生が何故ブログでも古典中医学の体系を解説されているのですか? 鍼師としての教養の一つ、温故知新?

2)専門学校では古典理論をやはり教えるべきなのでしょうか、それより解剖学の知識増加にもっとを時間を割くべきとお考えでしょうか? 
例えばある経穴が何に効くと言われている因果関係を現代医学に照らし合わせ解明していくというのも頭の体操としては面白いとは思います、例えば痔には承筋・承山穴、なぜなら日本の専門学校では深く取り上げない(重要視されていない)経別で繋がっているから、との回答に神経学・筋肉学などからそのように解釈できるのかできないのか、を検討するのは面白いことと思います。ただ臨床で有効かは症例経験がなく実感がないまま効くに違いないと信じようとしている?のが小生の現状ですが。
 

似田の返答

1)日本の針灸・漢方の古典に対する教育の程度を中国と比べると、大人と子供ほどの知識量があり、太刀打ちできません。知識=古典を記憶する、というのではかないません。また臨床研究でも、予算・規模の面で日本は圧倒的に不利です。しかし、どうやって施術して治療効果をあげるのかをみると、日本と中国は大差ないです。中医も卒後、有効な治療を求めるほかありませんから。

2)私のブログで中医をやるのは、中医学の一般的知識ではなく、古代中医師の考え方を再現しようと思ったからです。もとより、人体メカニズム=蒸し器の原理ではない訳ですから、結果的に現代中医に対する批判になっているのかもしれませんが。中医学の第一人者である兵頭明先生も、中医学が未完成の体系であることは認めています。中医学のこれからの体系づくりには、中国人ではなく日本人の発想が必要だろうとも、私に話してくれました。

3)東洋医学者が本治という言葉を使うのは、現代医療の詳細を知らない針灸学生や患者向けのプロパガンダでしょう。よく言っても本治の実態は、術者の思い込みであって、ズサンなものです。


 


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