柳谷素霊著、秘法一本鍼伝書の中に「五臓六腑の鍼」がある。2022年6月26日の当ブログ<いわゆる胃に響かせる刺針目標と技法 ver.2.0>で、この検討したが、その後に新たな知見もあったので、これを削除し、書き改めることにした。なお次の内容は、針灸奮起の会 内科症状、<第1回 上・中腹部消化器症状の現代針灸>で示したものになる。
1.柳谷素霊「五臓六腑の鍼」の概説
実際の記事を表に整理すると次のようになる。五臓六腑の鍼とは、膈兪、脾兪、腎兪の3種類をいう。各穴は、標準部位である棘突起下外方1.5寸ではなく、外方1寸としていることは、臨床的に重要な意味をもっている。さらに理解を助けるため、本内容を図示してみた。
2.横隔膜の神経支配
横隔膜中心部の神経支配はC3~C4、横隔膜辺縁部の神経支配はT7~T12肋間神経である。五臓六腑の針における響きを理解するには、横隔膜辺縁部の神経を興奮させることにあるらしい。
内臓は自律神経支配なので、針で響きを与えることはできないが、内臓を支配する体性神経神経は、横隔神経と陰部神経の2つあって、これが内臓症状に対する針灸治療の可能性を追求する部分になっている。仮にこれらの体性神経支配が無くなったとすれば、1~2分間呼吸を止めて我慢することができず、洗顔もできなくなり。排尿排便も我慢できず、室内は排尿物だらけになる。
3.一本鍼伝書で説明されている経穴
1)膈兪の針と脾兪の一本針
①外方1寸とする意義
一本鍼伝書の膈兪はTh7棘突起下外方1寸に、脾兪はTh11棘突起下外方1寸にとる。気胸予防だけでなく、このあたりが筋膜の重積部であると同時に筋膜癒着症状を起こしやすい部位になるからである。
②深部にある筋層を刺激する方法
気胸を避けるため、棘突起方向に向けて直刺する。1寸ほど刺入すると硬い筋膜にぶつかる。
硬い筋膜に針先が命中しても、ただちに響くことは少ない、。5~10秒間雀啄を続けているうちに、波紋のように響きが拡大する。響きの強弱は、雀啄の上下同の振幅で調整できる。細かな上下の雀啄の方が刺激が軟らかくなるなる。
なお1寸ほど直刺して硬い筋膜にぶつからない場合、響かせることはできないので、刺針部位を少しずらして再試行してみる。
③増強法
この技術は、少々難易度が高いので、経験の浅い者は、腹臥位ではなく座位で起立筋を緊張させた体位で、使用針も1~2番ではなく、5番程度を使い、響きを与えやすい条件で行うとよい。
膈兪・脾兪の針刺激→T7~T12肋間神経刺激→横隔膜辺縁部の響き(内臓に響いたような感覚)刺激との機序になる。
2)腎兪の一本針
横隔神経はTh7~Th12なので、腎兪から横隔神経を狙うのは難しいように思える。しかし腎兪レベルの椎体前面には横隔膜脚が付着しているので、この組織に影響を与えれば理論的には横隔神経に響かせることが可能かもしれない。石川太刀雄は、腎兪あたりに硬結が生ずる。小ささな硬結なので見逃されることも多いと「内臓体壁反射」で記している。ただし横隔膜脚は椎体前面に付着しているので、この部への刺針は非常な深刺となり、他の組織に与えるダメージが危惧される。
確かに、柳谷は、腎兪の刺針深度を、寸6~4寸と幅をもたせて示しているが、4寸針を使えば横隔膜脚への直接刺針は可能なのかもしれない。
柳谷は、膈兪や脾兪と異なって腎兪の響く部位を明記していない。また膈兪や脾兪が正座位で施術するのに対し、腎兪は長座位(膝を伸ばした座位)で刺針するとしている。長座位にするのは、腸腰筋を緊張させて刺針刺激に反応しやすくするためではないだろうかとも思う。
腸腰筋刺針ということならば、側腹位で起立筋と腰方形筋の筋溝から横突起方向に刺入した方が技術的に容易なものとなるだろう。これは胸腰筋膜刺激中葉刺激となる。これは膀胱経3行線上(棘突起外方3寸)となる。これについては稿を改めて解説したい。
4.膈兪・肝兪・脾兪から心窩部~胃に響かせる針(森秀太郎)
内臓に響かせる針は、森秀太郎「はり入門」医道の日本社刊にもあり、柳谷と同じようなる内容のことを記してる。以下に該当部を抜粋する。
膈兪以上の高さの背部兪穴は正座させて取穴刺針し、肝兪以下の高さの背部兪穴は、伏臥位で取穴刺針している。胃部の痛みが甚だしいときは、背を丸めて膈兪・肝兪・脾兪などの経穴で圧痛のはなはだしいものを選び、刺針し雀啄法を行う。内側に向けてやや深く刺入すると心窩部に響き、胸がすいてくる。(以下略)
胃部に突然急激な痛みが起こり、しばらくしていると一時楽になるが、また痛くなるのを一般に痙攣性胃痛という。胆石疝痛、胃炎、胃潰瘍、回虫症などがあって原因はさまざまだが、(中略)まずは痛みを止めることが先決である。
止める方法は急性胃炎の場合とよく似ているが、脊柱の両側とくに膈兪、肝兪・脾兪などの経穴で圧痛の顕著なところを選び、5~6号のやや太い豪針で胃部に響くような雀啄法をしていると痛みが和らいでくる。