AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

組織別の最適な治療手法

2011-02-08 | 上肢症状

  筋・腱関係の疾患には共通した病態生理がある。針灸治療においては、単に反応点を刺激するというに留まらず、反応点にどのような刺激を行えば治療が効果的になるのかまでが論点となる。刺激方法について定説はないが、臨床経験豊かな針灸師であれば、自分なりのルールができあがっていことだろう。本稿では私なりの回答を示す。 

 

1.筋腱付着部症  enthesopthy
 以前は筋付着部炎と称されてきたが、病理学的に炎症がないことがわかったので、現在では「症」と名称変更となった。筋腱の骨付着部は、知覚性神経線維が豊富で、複雑な神経叢を形成しており知覚感受性に富んでいる。腱はその中央部が強いが、腱の骨付着部や腱の筋連絡部は比較的脆弱であって腱付着部炎や筋付着部炎を起こすことが多い。 また靱帯の伸びを感知し、これに応じて筋トーヌスを決定する。
 たとえば胸鎖乳突筋起始部にある完骨穴で、仰臥位にて完骨に置針したまま、顔を左右に回旋させることで胸鎖乳突筋の緊張を緩め、頸の回旋の可動域を広げることができる。
 膝関節痛の場合、膝蓋骨内上縁にある内側広筋部(下血海)に置針した状態で膝関節の屈伸を行わせると、内側広筋の筋緊張を緩め、この部の膝痛を緩和させることができる。
 テニス肘では上腕骨外側上髁への前腕伸筋群の起始部に刺針し、手関節の屈伸運動を行わせると、これら筋群の緊張が緩み、肘痛も改善できる。

1)代表疾患:テニス肘、鵞足炎、アキレス腱付着部炎、オスグッド病、ジャンパー膝
2)治療手技:針管などを用い、腱の骨付着部にある限局的な圧痛を発見する。数カ所見つかることが多  
い。圧痛点から刺針し、抵抗を感じた時点で小刻みに強めに捻鍼し患部に得気を感じさせる。この際、針先に線維が絡み付く抵抗を感じた場合は、緊張を緩めずにそのまま短い振幅で素早く抜鍼する(筋線維が切 れる感覚を得る)。

 

2.筋々膜症
 筋線維自体に痛覚はなく、筋膜に痛覚がある。筋に炎症が起こると筋膜に信号を送り、筋膜痛を生ずる。筋膜痛は、とくに筋の伸張性収縮時(坂道を下る際の下肢筋など)にみられる。筋は一様に緊張するのではなく、筋線維中にいくつかの硬結が出現する。ここを治療点として選ぶ。

1)代表疾患:いわゆる筋々膜痛症候群
2)治療手技:運動針法 

 

3.腱炎、腱鞘炎
 腱の役割は、筋を骨に連結させることにある。筋に大きな力が加わった場合、筋の柔軟性が高ければ、腱に加わる衝撃は、穏やかなものになるが、筋が硬化し衝撃吸収能力が低下すると、腱へは短時間に大きな負荷となるので、最悪の場合には腱断裂を起こすこともある。
 腱鞘炎による痛みは、腱と腱鞘間に生じた摩擦による炎症に由来するが、それが近傍を走行する知覚神経に影響を与えた結果によるものである。
 一方、臨床点な観点として、「腱は痛むのか」は不明な点が多い。アキレス腱断裂であっても痛みを感じないことがあり、バネ指でも痛みは軽いわけである。結局、障害部位の近傍を走る知覚神経が影響を受けて初めて痛みを感じるのではないか。
 ちなみに、ド・ケルバン病の痛みの直接原因は、橈骨神経皮枝の興奮、すなわち皮膚に感じる痛みである。鵞足炎の痛みは、滑液包炎であることはめったになく、筋腱付着部の興奮が皮膚に投影され、限局的な伏在神経痛を起こしているのではいか?

1)代表疾患:腱鞘炎
2)治療手技:腱炎や腱鞘炎の痛みが、皮膚への放散痛であることの確認は、撮診(母指頭と示指頭で皮膚を軽くつまみ上げる)で行う。そして、撮痛部に皮内針を数本行うだけで、痛みが消えることが多い。ただし撮痛が広範囲にある時は、まず乱刺刺絡を行い、それでも残存する撮痛点に皮内針をする。 

 

 先の分類で、鵞足炎を、筋腱付着部炎による痛みに分類したが、腱炎を原因とした伏在神経痛という見方も可能なのではないか?いずれにしても圧痛点への皮内鍼で痛みが大幅に軽減することに変わりが。縫工筋。薄筋、半腱様筋中への運動針も併用した方がいいだろう