AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

乾吸治療には副交感神経緊張効果がある

2006-05-16 | 精神・自律神経症状

1.針灸治療システム内の吸玉の位置づけ
 吸玉の歴史は非常に古く、インドや中国では紀元前から行われていたという。西洋には11世紀頃十字軍の東洋派遣の際に持ち帰って普及したらしい。吸玉は何も東洋医学だけのものではないのである。
 吸玉には乾吸と湿吸がある。乾吸とは、単に吸いつける方法であり、湿吸とは刺絡した後に吸玉を使って陰圧にし、静脈血を積極的に吸引する方法である。
 東洋医学において、湿吸は瘀血を出す治療であることは明瞭だが、乾吸の効能に関する記述はあまりないようである。たとえば伏臥位で、背部に置針したり、吸玉したりするが、その使い分けはどのようにすべきなのだろうか?

2.乾吸の適応とは
 乾吸は、皮膚や皮下組織の牽引という物理的刺激と、皮下出血を起こすという化学的刺激がある。
1)皮下出血効果
 一度生じた皮下出血は、血管内に戻ることはなく、組織に自然に吸収される。これは組織の自然修復力に依存するので、灸治療における灸痕治療と同じように、修復が完全に終了するまで、この部に数日の間、継続的に自然治癒力を発揮させることができる。
 しかしながら陰圧が弱い時や陰圧時間が短い時に皮下出血は起こりにくいので乾吸効果の必須条件とはいえない。また皮下出血は外見上は宜しくないことなので、副作用というべきものかもしれない。

2)皮下組織の牽引効果
 乾吸を体験すれば分かるが、吸いつけた直後に一種の爽快感が得られる。そして5~10分後に乾吸をはずすと、こんどは解放感が得られる。
 吸いつけけている最中は、交感神経が緊張しており、取り外した直後は、その反動で副交感神経緊張になっているのだと考えている。一種のバルサルバ Valsalva 効果であるが、その主目的は取り外した後の効果である副交感神経緊張にある。つまり交感神経緊張亢進状態に適応があるといえる。

 たとえば患者に上腕屈筋を脱力させるとき、「ハイ、力を抜いてください」との指示で脱力させるのは難しく、肘を保持しつつ「今から腕を力いっぱい上に挙げてください」と言った後、つぎに「今度は腕の力を抜いてください」と言った方がうまく脱力できるのと同じことであろう。