粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

廃炉を要請する前に

2013-09-21 09:07:47 | 原発事故関連

日頃の安倍首相の政策には大方同意できる面が多いが、今回の廃炉要請だけはいただけない。首相が東京電力に対して、福島第一原発の廃炉を要請した件だ。5、6号機は事故なく現在もしっかり管理されているが、廃炉を今手がけるとなると莫大な費用と時間がかかる。福島県民も実際のところ、5、6号機の廃炉はあまり関心はない。現在緊急に対応しなくてはいけない問題は1、2、3号機の事故機であり、具体的には汚染水問題である。これが解決しなければ福島の風評被害は収まらない。

汚染水問題で最も重要なのは、浄化されずに溜まりに溜まってタンクをどう処理するかだ。この処理には2点が課題になる。一つは地下水が原子炉建屋地下に流入して新たに汚染水にならないよう、その流入を防ぐことだ。もう一つは、その汚染水を処理できずタンクに溜まったものをいかに浄化するかだ。一部メディアが騒いでいる海への流出は昨日のブログでも書いた通りたいした問題ではないと思う。

第一の問題の解決策は専門家の間でいくつか具体案がでているようだが、これは政府と東電の協議で最善策を打ち出してもらいたい。第二の汚染水の浄化は、多核種除去設備ALPS3基をフル稼働することが肝心だ。ALPSの稼働はこれまで度々不具合があって停止状態であったが、今月中の稼働が見込まれているようだ。今回の首相の福島訪問で広瀬東電社長が浄化は14年度中に終了させると首相に明言したが、これはALPSのフル稼働を念頭においたものだろう。

ALPSは汚染水のうちトリチウム以外の核種は除去できる。トリチウムは水素の同位元素の放射性物質で酸化した水となって普通の水と混ざっておりこれを分離させることは困難だ。たたこのトリチウム自体は自然界に存在し、放射線のエネルギーもセシウムの1万分の1程度であるという。紙1枚でも遮られるβ線を放出するので外部被曝の影響は無視できる。しかし、どこの原発でもこのトリチウムが発生するが、基準以下に水で薄めらて外部に全て放出されている。(icchouさんのブログ「ポストさんてん日記」に詳しい解説がある。)

したがって福島でも浄化しトリチウムだけ残ったものを薄めて海に放出すればよいのだが、実際はそう簡単ではないようだ。国民とりわけ福島の漁業者の理解がなかなか得られないということだ。原発事故当時、高濃度汚染水のタンクへの収容のため既に入っていた低濃度のものを当時の民主党政権の了承で海に放出した。それが国内外で強く非難された。韓国やロシアなどの抗議があったことは記憶に新しい。東電はこれがトラウマになっていて放出するという選択肢を目下もっていないようだ。トリチウムの半減期が12年なのでそれまでタンクに留め置く意向のようだ。(動画「言論アリーナ」での姉川東電常務の発言より)12年以上も狭い現場の敷地に管理維持されることは、事故収拾のためにはとても正常とはいえない。

トリチウムを含んだ水を海に放出することを国民に理解させることは東電の説得ではできない。事故当事者でその後も問題が表面化して、国民の信頼を失ってきているからだ。したがってこの時こそ国の出番であるといえる。つまりトリチウムのみが残った浄化水は基準以下に薄めれば全く問題がないということを堂々世界に発信することだ。そのためには、原子力規制委員会の審査確認やIAEA、WHO、国連科学委員会といった海外権威機関のお墨付きも必要だろう。その交渉こそ政府の役目であるし責任だと思う。安倍首相が福島原発の廃炉を進言するなどは一種のポピュリズムに過ぎない。そんな暇があったらトリチウム放出の必要性と妥当性を保証する努力をすべきだ。

さらにこれは汚染水とは関係ないが、除染の見直しも政府が主導して行うべきだと考える。今の汚染基準年間1ミリシーベルトはあまりに低過ぎる。これでは10兆円単位の費用と長期の時間がかかり福島県民の帰還を遅らせるばかりだ。年間1ミリ被曝説はなんの根拠もないものだ。一部放射能被害を過大に主張する立場の人たちの論理だ。これを早く見直して欲しい。当初出された年間5ミリシーベルトが妥当ではないかと思う。いまこそ安部内閣の政治力が望まれる。



2 コメント

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引用、感謝です。記事内容についても全く同意ですね。 (icchou)
2013-09-23 11:49:52
ご存じかも知れませんが余談として、
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887323410304579070472363568220.html?mod=wsj_share_tweet
細部の少し乱暴なところに目をつぶれば、全体的には歯切れのよい論説だと思いました。
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Unknown (うるしねまき)
2013-09-23 15:49:41
icchouさん、コメントありがとうございます。ご紹介のジェンキンス氏の記事はまさに的確で秀逸ですね。原子力を生かすも殺すも政治家の関与次第ですね。いまこそ安倍首相の政治力が期待されますね。それも騒がしい外野に動揺しない不屈の実行力です。
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