今日5日朝日新聞で原発事故と白血病についての記事が出ていた。1面と社会面の関連記事だ。1面では「9640人、白血病労災基準超す 事故直後、年5ミリシーベルト 福島第一原発」とある。
福島第一原発事故らら9ヶ月間の緊急作業時働いた約2万人のうち、白血病の労災認定基準「年5ミリシーベルト以上」の被曝をした人が約1万人にのぼることが、東京電力が7月に確定した集計からわかった。作業員の多くは労災基準を知らず、支援体制の整備が課題だ。
白血病の労災認定基準が年間で5ミリシーベルト以上というのは確か武田邦彦中部大学教授による「三重県で3年後住めなくなる」というデマ情報の時に話題になった。もちろんこの労災基準は厳格な予防学の観点で設定されたもので、武田教授が言うように年間5ミリ被曝すると白血病になるということではない。
実際のところ、疫学的に年間5ミリ被曝が適切なのかを考える上で昨年11月に報道されたチェルノブイリ事故関連の記事が今のところ最も参考になるだろう。「チェルノブイリ作業員米追跡調査11万人対象」の記事。アメリカの研究チームが20年間の積算被曝が200ミリ以下の被爆者11万人を追跡調査し、白血病の発症者を割り出している。た。だし11万人のうち80%が100ミリ以下の被曝であった。
137人が白血病になり、うち79人が慢性リンパ性白血病だった。統計学的理由で事前に20人を除き、117人についてほかの発症要因を除外する分析を行った。その結果、約16%に当たる19人が被ばくの影響で白血病を発症したと結論付けた。
つまり11万人の低線量被曝のうち、平常時での数値や他の原因によるものを除き、最終的には被曝によると見られる白血病患者は19人ということだ。ただし、累積被曝200ミリ以下しかも80%が100ミリ以下となっているが、19人のそれぞれの被曝線量は具体的に示されていない。実際5ミリ程度で白血病を発症したのかまったくわからない。
どちらにしても11万人に低線量被曝の影響で19人程度というから、福島原発事故で9640人の低線量被曝では2人程度。しかもチェルノブイリでは低線量といっても100ミリ以下だから、5ミリ程度で白血病を発症するというのはとても考えにくい。
朝日新聞の記事のように原発作業員全員に労災基準を認知させるような支援体制の整備が必要ともいえるが、白血病の影響を過剰に意識させるのもはたして適切なのか。この記事では、原発作業員を対象にしているが、原発周辺住民で年間5ミリ被曝をした人は少なくないだろう。無用な不安を煽ることにならないか。
そして朝日の同じ当日の社会面の記事「原発作業3カ月、20年後に白血病判明 労災認定の男性語る」だ。福島事故とは関係ないが、20数年前に九州の玄海原発と川内原発で電気設備作業員として働いた人の話が紹介されている。1986年から88年にかけて3ヶ月間に5.2ミリシーベルト被爆したが、その後は別の仕事をしていて20年後の定期健康診断で白血病と診断された。
2カ所の原発での被曝が原因ではないかと疑って労災申請をしたら認められたという。ただし彼が「駄目でもともと」という気持ちだったようで、その因果関係についても自信があったようには思えない。
しかし朝日の記事の見出しだけ見ると、原発作業3ヶ月被曝5.2ミリシーベルト→20年後白血病発症、と武田教授ではないがこんな低被曝でも即白血病の危険というような印象操作を感じてしまう。
記事を読んでもその科学的根拠を示唆する医学者のコメントもない。見方を変えればこの年間5ミリの労災基準は極めて「緩いくて甘い」といえるのではないか。それで白血病患者の金銭的な支援となるのならそれもよいかもしれない。しかし、被曝とは関係ない白血病患者にとっては不公平という誹りを免れないと思う。
右)朝日新聞8月5日1面記事
左)同30面社会面関連記事