復興庁元参事官の「暴言ツイッター」で話題になった原発事故での「子ども・被災者支援法」。昨年6月議員立法で制定されたが、1年以上経っても国からの支援の基本方針が定まっていない。業を煮やした一部福島県民らが、この停滞は違法状態だとして、東京司法裁判所に提訴した。
この模様は、ネットメディアのOur Planet TVの最新動画で見ることができる。動画の説明によれば、「国を訴えたのは、避難指示区域以外の福島市や郡山市などに暮らす住民や県外への自主避難者のほか、栃木県那須塩原市や宮城県丸森町の住民ら計16世帯19人」という。つまり福島の旧警戒区域などから強制的に避難させられた人々以外の19人で隣県の人もいる。要するに、こうした地域は住民の放射能汚染による健康不安の意識の違いから、人々の間でこの法律の関心の度合いが大きく違ってくるといえる。不安が強い人は、この法律で可能な限り支援の適用を受けたいと考えているわけである。
具体的には動画での指摘にもある通り「公衆の被ばく線量の上限とされている年間1ミリシーベルトを超える地域を、支援の対象地域にすべきだと主張。2012年の同法施行当時、年間1ミリシーベルトを超える地域に居住するか、そこから避難していた原告全てが支援対象者に当たる。」としている。
年間被曝1ミリシーベルトは、民主党政権時代細野環境大臣が、除染基準としてこの数字が指標になったことを受けてのものといえる。しかし、この指標は低すぎて除染計画を遅らせその費用も膨大になるとして批判も強い。福島の復興を遅らせれだけともいわれている。さらにこの数値を被曝による健康被害と直結させることにも疑念が持たれている。したがって、今回司法裁判所に訴えた原告が前提の根拠にしている数値が果たして正当なものといえるのか。
原告は「この法律は、低線量の健康影響は科学的に分からないという前提にたっており、それそのものが理念だ。」と主張しているが、少し違和感を覚える。この法律の施策の基本理念の第一項目に「正確な情報の提供」とある。もちろん、東電や行政が汚染の実態を隠蔽し開示しないことがあれば問題だ。反面、国内の研究機関の正確な情報や国連による一連の原発事故での健康被害に関する報告書をも十分考慮すべきだと思う。それこそ「正確な情報の提供」と考えられるからだ。
原告が「(健康への影響は)科学的にはわからない」と始めから前提にして、これらの科学的データを軽視する印象さえ見受けられる。その一方で年間1ミリシーベルトに固執している。これでは「子ども・被災者支援法」の本来の趣旨に反し、本末転倒になりかねないとさえ考えられる。