以前、書の師が中国雲南省を訪れた際、東巴(トンパ)文字の最後の継承者とも
言える長老が書かれたという作品を贈られたとのことで、本物を拝見したことがある。
トンパ文字とは、チベット東部や雲南省の奥地に住む、少数民族のナシ族の中でも
トンパというごく限られた階級の人のみが用いる象形文字。
現在では継承者も高齢化し、数少ないという。
たいていは横書きで左から右へ読んでいくが、突然、上から下への移動もあるらしい。
主に毛筆で書かれているが、竹ペンのようなもので書かれたものもあり、
墨だけではなく、彩色されたものもある。
調べてみるとこのトンパ文字は、世界でも唯一、色でことばの意味を変えられる、とある。
たとえば「人」を青く塗ると「厚着」、赤なら「裸体」あるいは
「不思議な力を持った」。
(参考:トンパ文字 生きているもう1つの象形文字 王超鷹 著 マール社)
この本によると、ナシ族は女系社会で、「女性の立場が男性より強く、男性は少しだけ
仕事をしながら、社会を傍観者のようにゆったりと時を楽しんでいる」そうだ。
だから赤は「強い」「不思議な力を持った」の意味を持ち、文字の「女」は
「大きい」を「男」は「小さい」を意味するとも。
更に、同じ内容のものでも、書き手の絵心や感性、宗教観によっても異なる絵と
なり、それを読む人の感性によっても、また内容が変わってくるというから面白い。
実におおらかというか、大陸的な話だこと。
調べるうちに、トンパのふるさと~雲南省を訪ねてみたくなった。