湘南文芸TAK

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第七条続き 千家元麿「雁」

2016-02-01 00:00:04 | 
昨日投稿した金子光晴「作詞にあたっての十個条」第七条には続きがあり、千家元麿の詩が引用されています。

もうひとつ千家元麿の「雁」という詩をあげておきましょう。この詩は、すこしのけれんもない、質朴な表現で、正面から取りくんで書かれたものですが、うちに作者の善意と、正義感と、無垢な精神をとおして、ひとつの世界のひろがりを感得することのできるよい例です。
   暖い静かな夕方の空を
   百羽ばかりの雁が
   一列になつて飛んで行く
   天も地も動かない静かな景色の中を、不思議に黙って
   同じやうに一つ一つセッセと羽を動かして
   黒い列をつくつて
   静かに音も立てずに横切ってゆく
   側へ行つたら翅の音が騒がしいのだらう
   息切れがして疲れてゐるのもあるのだらう
   だが地上にはそれは聞えない
   彼等はみんなが黙って、心でいたはり合い助け合って飛んでゆく。
   前のものが後になり、後ろの者が前になり
   心が心を助けて、セッセセッセと
   勇ましく飛んで行く。

   その中には親子もあらう、兄弟姉妹も友人もあるにちがひない
   この空気も柔いで静かな風のない夕方の空を選んで、
   一団になつて飛んで行く
   暖い一団の心よ。
   天も地も動かない静かさの中を汝ばかりが動いてゆく
   黙ってすてきな早さで
   見てゐる内に通り過ぎてしまふ。 
 千家元麿は、『白樺』派の詩人で、『白樺』派に共通した一刻で、ひた押しなところがあり、それが往々、独善的傾向に傾くこともありますが、この詩は、そうした嫌味がなく、すっきりとしたもので、成功作ということができましょう。そして、字づらばかりでなく、じゅうぶん、その底によこたわる、宇宙的ひろがりを感じることができます。

千家元麿には直球的な情深い作品が多いですよね。作者自身の家族愛、想像力、表層的ではない感動を描く才能を感じます。

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