以前の湘南文芸例会で「放浪記」に入っている詩いいよね、という話になったことがありました。
林芙美子(明治36年~昭和26年)が初めて出版したのは「蒼馬を見たり」という詩集。
その後散文作品が大ヒットしたけれど、もともとは詩の人でした。
私がいちばん好きなのは、秋が訪れると思い出すこの詩です。
秋のこゝろ
秋の空や
樹や空気や水は
山の肌のやうに冷く清らかだ。
女のやうにうるんだ夜空は
たまらなくいゝな
朝の空も
夜の空も
秋はいゝな。
青い薬ビンの中に
朱いランタンの灯が
フラリフラリ
ステツキを振つて歩るく街の恋人達は
古いマツチのからに入れて
私は少女のやうにクルリクルリ
黄色い木綿糸を巻きませう。
夜明近くの森の色や鳥の声を見たり聞いたりすると
私のこゝろが真紅に破けそうだ
夜更けの田舎道を歩いて
虫の声を聞くと
切なかつた恋心が塩つぱい涙となつて
風に吹かれる
秋はいゝな
朝も夜も
私の命がレールのやうにのびて行きます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます