湘南文芸TAK

逗子でフツーに暮らし詩を書いています。オリジナルの詩と地域と文学についてほぼ毎日アップ。現代詩を書くメンバー募集中。

「きれいごと」なしの大道珠貴@逗子

2015-03-25 00:47:36 | 文学
逗子が舞台と知って、大道珠貴「きれいごと」を読んでみました。芥川賞受賞作「しょっぱいドライブ」以来彼女の小説を読んだことがなかったんですけど作風は変わらず、格好悪い異性関係(今回は同性関係も)含めた下世話ぶっちゃけ系。潔いほどきれいごとなしなのに、標題が「きれいごと」とは洒落がきいています。
44歳独身のヒロインは、古民家と二階建てが渡り廊下でつながった山中の家を購入したばかり。前半ではその最寄駅の神武寺までアパートのある金沢八景から通って来て、壁を塗ったりしています。最後の方ではそこで暮らし始めたところに遠い親戚の高齢のオッサンが放浪の果てにやって来て住みついたりしています。子どもを産みたいとか電車に轢かれて死にたいとか矛盾する願望をもつけれどどちらも実現することなくそのまま終わる物語。
読後しばらく噛みしめていたら、この小説では出番なしの素敵なできごとを期待して訪れる人たちや気取った住民にザマミロと言いたい気分になりました。
 神武寺駅米海軍口
 三月。逗子市池子のわが家で、夜、眠るときに「幸せだなあ」とつぶやき、朝起きたときも、「幸せだなあ」とつぶやく日々である。木々が、素晴らしいんである。わたしなんかより、この家なんかより、うんと長生きしてきたんだろう木々たちの、その豪快な葉っぱのこすれ合う音。枝々の激しい撓り。アア怖いなあ、自然って。そのひれ伏すかんじがすごくいいんである。既視感も半端ではない。過去がグングンぐんぐん蘇って、頭は混乱している。そのかんじが、すごうく、いい。眠っているとき自殺願望が起こり、気分がもやもやしながら目覚め、木々の音を聴き、その起き抜けの、「現実がこれでよかった。夢よりましだもん」というこのかんじも、すごうく、いい。(略)
 いままでの経緯はすべて夢。

江ノ電の通る音がかすかに聴こえたので、うっとりした。
うっすら顎のまわりに髭を生やした三十歳の男。目が、まっすぐまっすぐわたしを見て、なんか書けと言う。このひとの頭のなかはどんな状態なんだろう、下半身なんてまだまだあとだ、頭のなかを、知ってみたいもんだ。


虚飾ゼロ!
ヒロインの作家がずっと大切に持っていて死んだらお棺に入れてもらいたい文庫本は、横光利一「機械・春は馬車に乗って」、梶井基次郎「檸檬」、福永武彦「草の花」、川端康成「山の音」だそうです。ちなみに「春は馬車に乗って」は逗子「山の音」は鎌倉が舞台です。
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