『はだしのゲン』という漫画がある。
中沢啓治氏による、自身の原爆の被曝体験を元にした漫画だ。
実際に広島に原爆が落ちた時の様子や戦中戦後の激動の時代を
必死に生き抜こうとする主人公中岡ゲンの姿が描かれている。
松江市内の小中学校で、この漫画の閲覧制限を設けたのが、昨年12月のこと。
始まりは、一般の人からの投書だったらしい。
市の教育委員会が、
暴力的な描写や性的な描写が含まれていることから、
成長途中の子ども達が自由に閲覧できる開架図書として置くのは好ましくないと判断し
閉架図書すなわち閲覧制限をした。
あくまでも暴力的な描写や性的な描写が問題であって、
歴史認識に関する議論はなかったとされている。
この閲覧制限については、賛成派・反対派 それぞれ意見が分かれるところだが、
閲覧制限すべきではないという意見の方が多いようにも見受けられた。
結局8月26日、教育委員会は手続きに問題があったとして、
閲覧制限を撤回し、混乱を招いたことを謝罪した。
1冊の本を巡ってのすったもんだは、
何となく問題がすり替えられたまま、状況を元に戻すということで決着がついた形だ。
そもそも子どもが読む本を、大人の思惑で制限すべきなのか、
制限する線引きは、どこなのか
その線引きするのは誰なのか。
犯罪者の低年齢化が進むにつれ、
ゲームや漫画、映像の暴力的なシーンを制限すべきだ・・・という意見も多くなった。
『東京都青少年の健全な育成に関する条例』が改正された時も、随分話題になった。
どんな本を読ませて、どんなゲームを買い与えて、どんな映画を見せるのか。
私自身は、それぞれの家庭の問題じゃないかと思う。
問題作であっても、きちんと親子で見て、考えて、指導(と言っていいのかな)すれば、
それはただの問題作ではなく、ちゃんと考える材料になるはずだ。
成長過程の子ども達に、すべての情報を与えるのは、確かに問題があると思う。
だが、その線引きは、難しい。
そこに大人の意志や思惑が見え隠れすると、怪しいものも感じてしまう。
この松江市の場合も、閲覧制限すべきと投書した人は、
“子どもに誤った歴史認識を与える”と考えたらしい。
だが、教育委員会では、歴史認識には触れず、暴力描写だけを問題にした。
実際にこの本を読んだことがないので、この本が、それほど反日なのか、
暴力的なのか、判断はできない。
誤った歴史認識と言われても、
何が間違いで、何が正しいかなんて、判断できないところもある。
自分が受けてきた教育が、正しかったのか間違っていたのかさえ、
今となっては怪しいところもあるのだから。
かつて活動していた日本人小学校の図書ボランティアは、組織も活動も大がかりで、
学校や子ども達に与える影響は、決して小さくなかった。
異国という特殊な世界で過ごす子ども達に、
できるだけ日本のことを教えたい、感じさせたいと
母親達は協力を惜しまなかったし、先生方の応援も大きかった。
日本語の本は、高価だったから、学校図書館の役割は大きかったのだ。
その図書ボランティアが発足したのは、ある1冊の本だったと聞いている。
(代々伝えられている伝説のようなお話)
まだ図書室が寄贈本でのみ成り立っている時代、
先生方が、図書室の本を完全に把握していなかったこともあり、
我が子が借りてきた1冊の本は、戦争賛美の本だった。
それを見た一人の母親が、
これではいけない!と立ち上がった。
志を同じくする有志の母達が集まり、学校の図書環境に協力し始めた。
ボランティアの母親達は、破れかけた本を修理・補修するのと同時に、
図書館に置く本の内容にも、しっかり目を通すようになった。
私がいた頃は、毎年購入する図書の選定も、ボランティアの仕事。
(予算と最終決定は先生です)
多くの母親達から情報を集め、
新刊案内を読み漁り、限られた予算で、
子ども達が好きな本、子ども達に読んでほしい本を購入リストとして学校に提出していた。
長くなるので今日はここまで。。。。