おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

「田園に死す」(古きよき映画シリーズその25)

2013-02-22 19:55:31 | 素晴らしき映画
 寺山修司の作品をもう一つ。公開当時(1974年)の、ラストシーンが今でも脳裏に鮮明に(家の壁が倒れると、新宿駅西口の雑踏。押し入れのふすまを開くと機関車が通り過ぎるシーンだったのは、「書を捨てよ町に出よう」だったか。)。恐山のおどろおどろしい風景も実際訪ねたことがあったので、興味を持った。そして、再び。

《あらすじ》 
 下北半島・恐山の麓。父に早く死なれた少年は、母と二人で暮している。狂ってしまった柱時計が時を打ち続ける、薄暗い家での生活。
 ある日、村にやって来たサーカス小屋へ紛れ込んだ私は、空気女・一寸法師たちから遠い町の事を聞く。

 私は、家出をすることを決心し、同じように生活が嫌になった、という隣の人妻と共に村を離れる約束をする。駅で待ち合わせをして線路を歩く二人。

 実はここまでは、映画監督となった現在の私が制作した自伝映画の一部であった。試写会に来ていた評論家から私は、「もし、君がタイムマシーンに乗って数百年をさかのぼり、君の三代前のおばあさんを殺したとしたら、現在の君はいなくなると思うか」と尋ねられた。
 過去の私が母親を殺せば自分がどうなるのかを知るためにやって来た「私」は、20年前の少年時代の自分自身に出会うことになる。

 少年の私は、本当の少年時代がどのようなものであったかを語る。・・・
 二人で話をするうちに、少年は母親を捨てて上京することを決意する。しかし、出発の準備を整える中、出戻り女によって童貞を奪われてしまう。

 たまらなくなった少年は一人、故郷を離れていく。
 今、現在の私は20年前の母親と向き合って食事をしている。突然、家の壁が崩壊すると、そこは新宿駅西口広場の雑踏だった。


《スタッフ》
原作 寺山修司
脚本 寺山修司
音楽 J.A.シーザー
撮影 鈴木達夫
企画 葛井欣士郎
配給 ATG
美術 粟津潔

《キャスト》
私:菅貫太郎
少年時代の私:高野浩幸
人妻:八千草薫
空気女:春川ますみ
草衣:新高恵子
せむしの少女:蘭妖子
牛:三上寛
批評家:木村功
詩人:粟津潔
嵐:原田芳雄

 原作の歌集からいくつもの歌が詠まれていく。映画全体として、かつてのような強いインパクトを感じなかったのは時代の流れか、はたまたこちらの感性の衰えか。あまりにも時代の流れは速すぎるのか。今や、一人ひとりの感性を超えて、人びとの生活の場としての町も村も崩壊しているのか。・・・

①大工町寺町米町仏町老母買ふ町あらずやつばめよ
②新しき仏壇買いに行きしまま行方不明のおとうとと鳥
③ほどかれて少女の髪に結ばれし葬儀の花の花言葉かな
④亡き母の真っ赤な櫛を埋めに行く恐山には風吹くばかり
⑤針箱に針老ゆるなりわれとわが母との仲を縫い閉じもせず
⑥たった一つの嫁入り道具の仏壇を義眼のうつるまで磨くなり
⑦濁流に捨て来し燃ゆる曼珠沙華あかきを何の生贄とせむ
⑧見るために両瞼をふかく裂かむとす剃刀の刃に地平をうつし
⑨とんびの子なけよ下北かねたたき姥捨て以前の母眠らしむ
⑩かくれんぼ鬼のままにて老いたれば誰をさがしにくる村祭り
⑪亡き父の位牌の裏のわが指紋さみしくほぐれゆく夜ならむ
⑫吸いさしの煙草で北を指すときの北暗ければ望郷ならず
⑬売りにゆく柱時計がふいになる横抱きにして枯野ゆくとき

 これらの歌に、新鮮さ・前衛性を感じるか。懐かしきふるさと・郷愁を感じるか、うさんくささを感じるか。寺山修司への評価(現的意義)ともつながる。・・・

赤一色の湖水。恐山の風景。奇形の乳児。間引きの風習。
菰に包まれ流された胎児を追うように流れてくる五段飾りの雛人形。

白く化粧する登場人物。黒一色の老婆の群れ。狂ったたくさんの柱時計。おびただしい数の遺影写真。古めかしい音楽。異形のサーカス団員。・・・。まさに寺山ワールドで、懐かしい印象の映画作り。

 今となってはあまりにも「古色蒼然」とした印象ではあった(芝居を最初に観た時のインパクトがあまりにも強くて・・・)が、これから初めて観る方達にとっては驚きの、疑問の、連続?


 ワンシーン(現在の私と評論家の会話)。

 「対象化したとき、自分の風景は厚化粧したにせ物になってしまう。」
 「人間は記憶から解放されない限り本当に自由になることはできない」

 こうした視点は、歌人・寺山のこだわり続けたものなのかもしれない。また、スタッフ、役者等々、多彩なメンバーだったことを改めて実感。影響のある一つの演劇シーンを飾っていた面々。 

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3 コメント

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キッチュ (PineWood)
2015-10-25 17:53:46
初めて見たのに何故か懐かしい!浅草花屋敷の怪しいお化け屋敷みたいな怖さがある…。これはキッチュという要素なのではないか?東京国際映画祭でオーソン・ウエルズ監督特集と並んで回顧上映とあっては評価の高まりも感じられる。今や国語の教科書にも登場する寺山修司の短歌だが、映画の評価は初めから国際的な評価があったー。黒澤明のオムニバス風の「夢」にも通じる自伝的な虚構性、風土性、霊的ユニバースなどあった。違うのはメタ映画としての映画評論或は詩人によるアイデンテテイー論、母性-子宮回帰への憧れと恐れ…?
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Unknown (なかおう)
2023-04-18 02:14:18
ラストシーンは新宿東口だよ
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Unknown (おやじ)
2023-04-19 22:06:53
ご指摘のとおり、東口でした。
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