永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(292)

2009年02月08日 | Weblog
09.2/8   292回

【野分(のわき)の巻】  その(3)

源氏が、

「いとうたて、あわただしき風なめり。御格子おろしてよ。男子どもあるらむを、あらはにもこそあれ」
――実に厭な騒がしい風だね。格子を下ろしなさいよ。男どもがそこらに居るだろうに、これでは内が丸見えではないか――

 と、おっしゃっておられますので、夕霧はまた引き返して隙見なさると、源氏が微笑んで紫の上にお話しになっていらっしゃる。

「親とも覚えず、若く清げになまめきて、いみじき御容貌の盛りなり。女もねびととのひ、飽かぬ事なき御様どもなるを、身にしむばかり覚ゆれど、この渡殿の格子も吹き放ちて、立てる所のあらはになれば、恐ろしうて立ち退きぬ。」
――源氏のご様子は、とても自分の親とは思えないほど、若々しく清らかになまめかしくて、今が盛りの素晴らしい御ありさまです。紫の上も、お歳にふさわしく整いきって、どこといって不足のないお二人のご様子なのが、夕霧には身にしむ程に思われますが、この渡殿の格子も吹き飛ばされて、立ち姿が露わになってしまい、空恐ろしくなってそこを立ち退きました――
 
そして、たった今参ったように声づくりをして、簀子に伺います。源氏は「それごらん、きっと丸見えだったことだろう。」と妻戸の方を見て注意なさる。夕霧は、

「年頃かかることの露なかりつるを、風こそげに巌も吹き上げつべきものなれ、さばかりの御心どもを騒がして、めづらしくうれしき目を見つるかな」
――なるほど、この年月、紫の上を拝見することなどなかったのに、風というものは、巌でも吹き上げる力を持っているものだ、さすが注意深い方々のお心を騒がして、よくぞまあ珍しくも嬉しい目を見たことだ――」

 と、思うのでした。

 そこに、人々が参って、「風がひどく吹いて、丑寅(東北)の方から吹きますので、こちらはそうでもありませんが、花散里の御殿は危のうございます」と大騒ぎです。

◆写真:隙見している夕霧  「和子/ 源氏物語」ーWAKOGENJI は リンク フリー。より。


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