永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(291)

2009年02月07日 | Weblog
09.2/7   291回

【野分(のわき)の巻】  その(2)

 お部屋は、御屏風も風がひどく吹きよせますので、畳んで寄せてあって、露わに見通せる廂の間に居られる方が、際立っておいでになります。

「物に紛るべくもあらず、気高く清らに、さと匂ふ心地して、春の曙の霞の間より、面白き樺桜の咲き乱れたるを見る心地す」
――ほかの者と紛いようもない、気高く美しく、さっと輝きわたるようで、例えば、春の曙の霞の間に、見事な樺桜が咲き乱れているのを見る心地がします――

「あぢきなく、見奉るわが顔にも移りくるやうに、愛嬌は匂ひ散りて、またなく珍らしき人の御様なり」
――見っともなくもふがいなく、拝見している私の顔にまで、艶やかさが映ってくるかと思われるほど、類い稀な美しいお方です――

 何か可笑しいことがあったのでしょうか、紫の上が笑っておられるのがお美しくみえます。お側の女房たちもそれぞれに綺麗ですが、紫の上には比べられそうもありません。夕霧は、

「大臣のいと気遠く遥かにもてなし給へるは、かく見る人ただにはえ思ふまじき御有様を、いたり深き御心にて、若しかかることもやと思すなりけり、と思ふに、けはひ恐ろしくて、立ち去るにぞ、西の御方より、内の御障子ひきあけて渡り給ふ」
――父上が、自分を紫の上(義母)から遥かに遠ざけておられたのは、こんな風に、見る人がただではすまされない気持ちになるようなご容姿でいらっしゃる方なので、万一という御配慮からであったとお思いになりますと、急に空恐ろしくなって立ち去ろうとするその時に、源氏が明石の姫君のお住まいである西のお部屋の方から、奥の襖を開けて入って来られました。――

◆匂ふ=(古語では)美しく照りかがやく

◆樺桜(かばざくら)=古今集に「かには桜」、和名抄に朱桜とある。薄紅の花だという。

ではまた。

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