永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(331)

2009年03月20日 | Weblog
09.3/20   331回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(2)

 玉鬘がそれほどお好きでなかったと思われる髭黒大将に、仏の加護が現れたのでしょう。源氏も不満に思われますが、今更どうしようもなく、

「誰も誰もかくゆるしそめ給へることなれば、引き返しゆるさぬ気色を見せむも、人の為いとほしう、あいなしと思して、儀式いと二なくもてかしづき給ふ」
――他の人が皆納得なさったことならば、自分だけ不承知な様子を見せるのも、大将に気の毒ですので、仕方がないとお思いになって、ご婚礼の儀式をたいそうご立派にして、婿君へのおもてなしも鄭重になさいました――

 大将は早速にも玉鬘を自分のお邸へお移ししたいと、用意していますが、軽々しくそのように引き取られていったならば、あちらには、このことを快くお思いでない北の方が待ち受けておいでになることでもあり、源氏は玉鬘に、

「なほ心のどかに、なだらかなるさまにて、音なく、何方にも人の謗り、恨みなかるべくを、もてない給へ」
――まあ、ゆっくりと落ち着いてしばらくはここにいらっしゃい。うるさい世間の噂も醒め、批難や恨みのないようになさるのが良いでしょう――

 と、おっしゃる。また父内大臣は、

「なかなかにめやすかめり。殊にこまかなる後見なき人の、なまほのすいたる宮仕へに出で立ちて、苦しげにやあらむ、とぞうしろめたかりし。(……)」
――宮仕えより、落ち着く先はかえってこの方が良かった。特に親身に後見してくれる人もない身の上で、なまじ帝の寵愛を争うような宮仕えに出でたつのは、苦労が多いであろうと気になっていたのだ。(玉鬘を愛しく思っていても、弘徽殿女御がれっきとして帝のご寵愛を頂いているのを差し置いては、私としてもどうしようもない――

 と、こっそりおっしゃっております。確かに帝とは申せ、玉鬘を他の方より低く、ご寵愛も薄いならば、宮仕えに上がったのも、軽はずみであったということになるでしょう。三日夜のお祝いの儀も源氏がきちんとなさったと、人づてに内大臣もお聞きになり、あり難くお思いになりました。

「かう忍び給ふ御中らひのことなれど、自ずから、人のをかしきことに語り伝へつつ、つぎつぎに聞き洩らしつつ、あり難き世語りにぞさざめきける」
――このように他には洩れないようにとのお二人のご縁組でしたが、自然に誰れかれが面白おかしく語りつたえたものでしょう。次々に広がって、珍しい語り草と世間では言いはやしておりました――

◆なまほのすいたる宮仕へ=生仄好いたる=中途半端な色好みの宮仕え

ではまた。


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