永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(御読経・宮中の場合)

2008年06月05日 | Weblog

御読経(宮中主催の場合)

・初日

『西宮記』によると、まず承明門の西隣にある永明門を開き、刻限になると弁官が門の外で鐘を打ち鳴らします。
それから王卿、衆僧、導師の順に参入、着座して、法会が始まります。最初に発願の啓白(けいびゃく。法会などでその趣旨や願意を申し述べること)があり、教化(きょうけ。声明の節で歌われる仏教歌謡)、読経、咒願(じゅがん。施主の願意を受けて仏・菩薩の加護を願う祈りの言葉)、三礼(さんらい。仏に三度礼拝すること)と続き、行香(ぎょうごう。焼香のために、香と香炉を載せた台を捧げて衆僧の間を巡り香を配ること)が終わる
と僧らは退席します。王卿にはその後、酒肴が饗されました。

・2日目

この日は、引茶があったこと以外はよくわかりません。引茶とは、帝が衆僧に茶を賜うことで、紫宸殿では蔵人所の五位・六位の者、御前では殿上人が給仕役を務めます。僧の好みに応じて、お茶に甘葛煎・厚朴(こうぼく。ホオノキの樹皮を乾燥させた生薬)・生薑(生生姜)が加えられました。

・3日目

春の御読経では、番論議が行われました。秋には行われなかったようです。番論議とは、学僧が問者と答者に分かれて仏教の教義を討論することで、僧侶の修練・試験として出世のための一段階とも位置づけられました。『西宮記』や『小野宮年中行事』の記述によると、紫宸殿で5・6番の論議を行った後、夕方に清涼殿に渡って帝の御前で再び問答を行ったようです。などの記述から、この日も引茶が行われたことがわかります。

・最終日

この日は結願日で、初日と同様に王卿が参集して法要が営まれます。『西宮記』の儀式次第に沿って記述しますと、読経、巻数(かんじゅ。供養や祈祷のために読誦した経典・陀羅尼などの名と回数を書いた目録のことで、これを僧から願主に贈ります)、教化、咒願、三礼、行香と進みます。法会の後に、王卿らのために饗応があるのも初日と同じです。僧はお布施の綿や絹、木綿などを賜りました。
以上のように、朝廷による季の御読経は非常に大がかりな法会でした。また『枕草子』第二八〇段「きらきらしきもの」に挙げられている点からも、荘厳にして絢爛華麗なものだったと想像されます。

◆参考・ レポートby 明さんより拝借しました。
◆写真 宮中の饗宴  風俗博物館より











源氏物語を読んできて(68)

2008年06月05日 | Weblog
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【賢木】の巻 (16)
 
 朧月夜の君の、紛らわしようのないご様子を、子ながら恥ずかしいであろうと思いやるべきでしょうに(これは作者の弁)、この性急な右大臣は畳紙を取りながら几帳よりお入りになります。と、そこには、
「いといたうなよびて、つつましからず添い臥したる男もあり。今ぞやをら顔引き隠して、とかう紛らはす」
――大層なよやかな姿をして、遠慮もなく横になっている男もいます。覗かれた今になって、やっとお顔を隠して何とか紛らわしておいでです――

 右大臣はあきれて、ひどく腹立たしいものの、このような時には面と向っては何事とは言われないものでしょう(作者の弁)。目眩(めまい)の心地して去って行かれました。

 朧月夜の君は正気も失ったようで死にたい程のお気持ちです。

源氏は「つひに用なきふるまひのつもりて、人のもどきを負はんとする事と思せど……」
――とうとうつまらぬ振る舞いが積もり積もって、世間の非難を受けることになったと思いつつ、(尚侍を気の毒にとなぐさめておられます)――

 右大臣は、もともと感情的で性急で、熟慮のない方で、早速弘徴殿大后(わが娘)に訴えられます。このようでした。
「この畳紙の筆跡は右大将(源氏)のものだ。昔も許し難いことがあったが、それも源氏の人柄に免じてゆるして、婿にとも言い出したその時は、先方から失礼なあしらいをされ、源氏との関係を知りながらも、娘朧月夜の君を帝のお側にあげたものだ。それが原因かどうか内裏でも歴とした女御のお扱いがなく残念なことなのに。まったく大将(源氏)はけしからん。朝顔の斎院とも依然として忍んで文を交していらっしゃるなど、自身のためにもお分かりと思っていたものを……」と大層ご立腹です。

 弘徴殿大后は、もともと源氏に対しては憎悪のお心がつのっておいででしたので、仰るにはこのようでした。
 「帝の朱雀院(桐壺院と弘徴殿大后の御子)は、帝と申し上げても皆から見下げられておられ、先に辞職された左大臣が大事に育てていらした一人娘(故葵の上)を、帝にではなく御弟の源氏の元服の添い臥しにと取っておかれたのです。……、源氏を婿にできなかったので、朧月夜の君は宮仕えに出たのもいとおしく、立派なお支度もしましたのに、姫君ご自身は源氏がお好きで、そちらに従おうとなさるのでしょう。朝顔の斎院とのことは、きっと噂どおりでしょう。大将の態度が帝にとって不安にみえるのは、春宮の御代への期待が人と違っているからでしょう。」
…とずばずばと仰る。

 右大臣は、そうかもしれないがちょっと言い過ぎたと思われて
「しばしこのこと漏らし侍らじ。内裏にも奏せさせ給ふな」
――しばらく秘密にしておこう、帝にも決して洩らしてはならない――

 しかし、大后は
「かく一所におはしてひまもなきに、つつむ所無く、さて入りものせらるらむは、ことさらに軽め弄ぜらるるにこそは、と……」
――こう一つ邸に居て、隙間もないのに、憚るところ無く、ああして忍び入って来られるのは、こちらを軽蔑し愚弄されているからこそ、と、(この機会に源氏を退ける謀(はかりごと)を企てるに丁度よい折りだと思い巡らします。)――

賢木の巻 終わり。

ではまた。