永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(上級女房以上の略装・小袿)

2008年06月29日 | Weblog
略装・小袿(こうちぎ)

 小袿とは、小形の袿の意で、形は袿や表着と同じですが、特に丈を短く仕立てたものをいいます。

 上臈女房以上の高貴な身分の女性達の間では、裳唐衣装束の略装として、唐衣・裳を省略して表着の上に小袿を重ねることがありました。これを小袿姿といい、男性装の衣冠(束帯に次ぐ準正装)に相当する装いとされました。

 長袴、単、五衣、表着、小袿を着て、桧扇を持ちます。(夏は「蝙蝠(かわほり)」という扇をもちました。)


源氏物語を読んできて(93)

2008年06月29日 | Weblog
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【明石】の巻  その(5)

 明石の浦は、想像以上に人が多くみえます。

 入道が持っている地所は、季節季節に応じて海辺には興を催しそうな苫屋を建て、山陰には勤行用の荘厳なお堂を建てて、念仏三昧をし、この世の生活の安泰のためには、稲を積んだ多くの倉を持って、どれも四季に合わせて見栄えのするように立派にしてあります。

 先日来の高波に驚いて、娘は岡辺の方に住まわせておりますので、源氏は浜に近いお屋敷に気楽にお暮らしになります。

入道は
「老い忘れ齢延ぶる心地して、笑みさかえて、先づ住吉の神を、かつがつ拝み奉る。」
――入道は老いも忘れ、命が延びるような心地で思わず笑みがこぼれるのでした。まづはねんごろに住吉の神を拝み奉ります――

 まるで月と日の光を手に入れたような心地で、一身に源氏にお仕えなさるのはごもっとものことです。入道のお住いは、なるほど都の高貴な方々と違わず、奥ゆかしくきらびやかな様子は、むしろかえって勝っているように見えます。

 少し落ち着かれた源氏は、都にお文をしたためて、先の使者に託します。
親しくしていた祈祷師たちにと、また、もっともなつかしい藤壺には、不思議にも九死に一生を得たことを。二條院の紫の上には、先のご返事として、ことに細々とお書きになりつつ涙をぬぐうのでした。供びともそれぞれふるさとへ書いているようです。

 源氏は、明石のにぎやかさを厭うものの、ここはまた須磨とは様子が違っていて興を引かれることも多く、心が慰められるようです。

 明石の入道が一生懸命勤行なさるのは、ただこの娘ひとりの行く末を気の毒な程案じてのことで、ときどきそれとなく源氏に愚痴をこぼします。

源氏は
「御心地にもをかしと聞きおき給ひし人なれば、かくおぼえなくてめぐりおはしたるもさるべき契りあるにやと思しながら、なほかう身を沈めたる程は、行いより外のことは思はじ、都の人も、ただなるよりは、いひしに違ふと思さむも心はづかしう思さるれば、気色だち給ふことなし。事にふれて、心ばせ有様なべてならずもありけるかな、とゆかしう思されぬにしもあらず」
――源氏は、内心ではそれとなく、かつて(若紫の巻、良清から)美人と聞いておられた人なので、こうして思いがけなくここに来られたのも、その女と何か深い縁があるのかと思われますが、今はこうして身を落としている間は、仏道修行より外のことは思うまい、都の紫の上もそんなことがあれば、約束と違うとお思いになると思うとはずかしく、そんな素振りをお見せになさらない。もっとも何かにつけて、気立ても容姿もなみなみではないのだなと、お心が惹かれない訳でもないのでした――

◆写真:絵画 明石の浜

ではまた。