永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(73)

2008年06月09日 | Weblog
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【須磨(すま)】の巻  その(3)

 源氏が二条院にお帰りになりますと、源氏のお部屋付の女房たちも、眠れぬままあちことに固まって、世を嘆いております。侍所(従者の詰め所)にも、身内との別れに行っているのか人影がまばらです。

 「さらぬ人は、とぶらひ参るも重き咎めあり、煩はしき事まされば、所狭くつどひし馬車(うまくるま)の形もなく寂しきに、世は憂きものなりけり、と思し知らる。……」
――源氏に関係のない人は、お見舞いに参上するのも重く咎められていて、何かと面倒な事が多いので、かつては、その辺ぎっしりと集まっていた馬や車の影もなくさびしい。世の中は嫌なものだと、やっとお分かりになる。臺盤(だいばん)の一部は塵にまみれ、畳はところどころひっくり返して寄せてあったり、今でこうならば、ご自分が居なくなったらどんなに荒れてゆくことだろうと思われます)――

 源氏が、西の対の紫の上のお部屋においでになりますと、こちらの女房たちももの思いに夜を明かされたようで、源氏のお渡りに、急に起き騒いでおります。

 源氏は「昨夜はしかじかして夜更けにしかばなむ。例の思はずなるさまにや思しなしつる……」
――昨夜はこういう訳で遅くなったので泊まったのです。例によってとんでもない方に邪推なさったのでは?(京に居る間はあなたのお側を離れないようにと思うものの、世間を離れるにはいろいろの事がありまして、引きこもってばかりはいられないのです。無情なこの世で人から薄情者と見放されるのも辛い気がして)――

 紫の上は「かかる世を見るより外に、思はずなることは、何事にか」
――こうした運命に合います以外に、とんでもない事とは何でしょう――

 父の親王も、今度の事件では外聞を気になさって音信も寄こされません。継母の北の方は、それ見たことかと、出世の慌ただしさと凋落を陰にて言われるらしい。

 源氏はいろいろとなだめられる話のなかで
「過ちなけれど、さるべきにこそかかる事もあらめと思ふに……」
――身に覚えはありませんが、何かの因縁でこういう目にも遭うのでしょうに、まして女を伴うのは前例のないことですから、無闇と狂気じみたこの世間では一層やっかいな事になるでしょう――
と、紫の上にじゅんじゅんと言い含められます。

ではまた


源氏物語を読んできて(畳)

2008年06月09日 | Weblog


板敷きの上に、必要な所だけに置いた。厚い、薄い、長短は一定せず、用途により重ねて敷いた。
縁(へり)は身分に応じて種類があり、天皇・上皇はうんげん縁、親王・大臣は高麗縁、公家は高麗小紋、殿上人は紫、六位は黄色を用いた。

◆写真 風俗博物館より