無意識日記
宇多田光 word:i_
 



ふぅ、やっと『Electricity』を分離して聴くようになってきたぞ。アルバムリリースから5週間か…(遠い目)。それでもやっぱり2枚まとめて聴く中毒からは逃れられない。長い旅路を経て『Gold 〜また逢う日まで〜』のイントロが流れ始めてからの3曲(Gold+Electricity+Sci-Fi Edit)のクライマックス感は筆舌に尽くし難い。それこそ映画の脚本みたいだよね。クライマックス直前で長年の朋友が駆けつけてくれて(『二時間だけのバカンス』の椎名林檎嬢)そこから畳み掛けていく。「のび太の魔界大冒険」でドラミちゃんが来てくれた時くらいに頼もしい。そりゃ癖になる。

この流れが自然に聞こえるのは、それこそヒカルが椎名林檎嬢に告げた『素直』というキーワードがいちばんしっくりくるだろう。あの一言は、ヒカルちんからゆみちんへのエールであるとともに、ヒカルからヒカルへのエールでもあったのかもしれない。宇多田ヒカルも、素直にひとつひとつの曲を作ってきたのだ。だからそれらを並べた時に流れが出来る。

『Electricity』を聴いた時に印象に残るのは「スケール感」だろう。物語のボリューム感と言い換えてもいいかもしれない。長らくアルバム曲の一つとして接してきた為それは「ここまでのヒカルの楽曲制作の流れに自然に沿った帰結」であるが故に、過去25年の総括としてそう聞こえてくるのかなとも思っていたが、単独で聴くようになると、当然そのような側面もあるとはいえやはりこの曲はそれ単一でスケール感がデカいと感じる。それは歌詞が地球規模宇宙規模の目線を持っているというのも大きいが、何より歌い方が違う。ヒカルが今まででいちばんのびのびと歌っているのだ。

宇多田ヒカルといえば切なさの歌姫で、どこか苦しげな、明るい歌でも翳の差す歌声が嘗ては特徴的だったが、『Fantôme』で復帰後は発声を進化させて母性と優しさを感じさせる柔らかい歌い方が加わってきた。しかし、何より鎮魂歌からのスタートだった為音像は依然切実で、母親としても『守りたいのはあなた』なんて風に歌うのが主題だった。

が、アルバム『BADモード』を経てかなりイケイケモードとその切実さが融合してきたというか、そもそもその『BADモード』のタイトルトラックが「悩んでるなら力になるよ」系の歌詞なのにサウンドはイケイケ(一辺倒ではないけれど)に仕上がっていた。ここらへんがきっと「素直」の賜物なのだろう、楽しいサウンドと切なさと頼もしさがリンクし始めているのだ、今。

『Electricity』は更にそれに拍車が掛かっている。とにかく歌い方が心地好い。のびのびと、声を出す事自体が楽しいような、そんなメロディ運びと発声の中で、親しい人との高揚感や、辛辣な本音や、人類愛や宇宙愛といった本来それぞれ単独で楽曲を構成するような相異なるテーマの数々をまとめて歌い切ってしまう。その視野の広さが更に歌声のスケール感を倍増させている。この歌は、広い所で歌えば歌う程映えるだろう。しかしそれを『E-e-e-e-le-e-e-ec-tri-ci-ty』のリフレインがいきなり世俗的・身体的なレベルにまでフィーリングを落とし込んできて、恐らくなるほどこれは一緒に歌えという事かと納得させられる。今までの宇多田ヒカルにない、ちょっと変わった構成である。最近の楽曲はどれも尋常じゃない構成だけども。

コンサートツアーを目前にして、ヒカルの頭の中の歌詞世界と、会場で実際の人々と目が合う瞬間とがリンクして、この『Electricity』は完成をみた気がする。この曲の真価を捉えるには、ツアーが無事終わるまで待つことになるかもしれないね。歌ってくれれば、だけどね!

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