成松大介(写真左下)のことを知ったのは、最近のこと。
信頼している、とあるプロボクサーがいる。彼は先月、再起戦に完勝し、今は再び、次戦に向けて練習を日々重ねているさなかの、いわば衝撃の出来事!
彼はすでに、プロ23戦も経験、日本ランキング入りしていて、タイトルマッチにも挑み、惜敗した実力の人間だ。まだ、27歳の、伸びシロ一杯。
そんな彼が、つい最近、スパーリングした相手に、”フルボッコされた”と言う。
ええっ!フルボッコとは、フルに、全ラウンドにわたって、ボコボコにされたという意味。
そんなすごい選手が、プロにいるのかよ! ボコボコは、まま有るけれど、フルに完璧にやられたというのは、ついぞ聞いたことが無かった。ジムに取材に行って、彼のスパーリングをじっくり観戦していても、ソレはただの1度も無い。
そんな強いボクサーって、いったい、相手は誰だったんですか?と聞いた。
なんと、リオ五輪に出場する成松という選手とのこと。
「うまくて、何より、対応力がピカイチでした!連戦連勝により、身に付いた強さでしょう」
てえことは、アマチュア? 連戦連勝??
あわてて、ざっと調べてみただけでも、104勝18敗。レフェリーストップも含め、KOは、32。
ほえ~っ!
産まれは、1989年12月14日、現・熊本市。熊本農業高校で頭角を現し、3年生の時、高校総体3位。国体で、優勝。東京農業大学に進み、以降、日本選手権6連覇。
五輪といえば、4年前のロンドン。この時は、成松、国内敗退。村田諒太(りょうた)は、ミドル級で金メダル。清水聡(さとし)はバンタム級で銅メダルを獲得したことは、ボクシングファンならば、記憶の片隅に残っているはず。
村田が金メダルを獲ったことにより、にわかに清水も脚光を浴びた。
それも、ひどい、デタラメな判定で、あやうく敗退させられるところだったことまで、ボクシングフアンに知られるまでになった。
バンタム級で出場した清水。
勝ち上がっていくなかで、とんでもない事実が報道された。アゼルバイジャンの選手が、勝ちたい為に日本円に直して、6億8000万円ものワイロをジャッジやレフェリーに渡していたというのだ。
にわかに信じられない高額。だが、ワイロの意識は無いが、受け取った事実は全員が認めた。
清水は、なんと準々決勝でその選手と対戦。
まあ、次から次へと信じられないジャッジとレフェリングが飛びだした。
アゼルの選手。ラフで、大振りなパンチで、都合2度、清水はダウンしかけたが、すぐファイテイングポーズをとったから良かったものの、アゼルの選手がダウンしても、カウントも数えない。
黙って、立ちあがってくるのをじっと、ゆっくり待ち続けるレフェリー。
打ち込まれると、かぶっていたヘッドギアがずれたとの意思表示。でも、かぶり直しもせず、休む有り様。それも、何度も何度も・・・・・。
そして出た判定は、清水の敗け。
アタマにきた清水は、自分で試合後、すぐさま直訴。
「この判定は、誰が見てもおかしい。疑惑だらけだ。明らかに自分が勝っていた。判定を、もう一度やり直して欲しい」と。
そして・・・・判定は、くつがえった。清水は勝ち上がり、試合結果は銅ではあったが、勝って銀を手にしてもおかしくない小差であったように、今も記憶している。
プロ向き。そう感じた。
むしろ、金を手にした村田ではあるが、決勝戦は僅差。明らかに、村田がハッキリと獲ったラウンドは皆無のように見えた。何度も、再生して観たが・・・・。
プロボクシングの選手やトレーナーは、村田の方がプロ向きだと、誰もが言った。そうかなあ・・・と、自分。
あれから4年。
2人とも、帰国後、プロ転向を否定していたのに、あららあ!?・・・・・・
村田は、勤めていた大学職員としての退職金相当額を、プロのジム側と、フジテレビ局から提示されたとたん、コロッと転向、心変わり。
節操や、かたくなな信念など、何も無い性格。
名義上の所属ジムと、実質上のジム。そして、アメリカでの練習ジムまで与えられたのに、真剣に練習メニューに取り組んでいないサマが、結果になって露呈。
勝って当然のラクな相手をマッチメイクの力量で与えられたのに、いずれも苦戦し、ワンパターンのコンビネーション。走り込みをしていないため、スタミナが無い。ボディ打たれて、うぐっ! ゼ~ゼ~ハ~ハ~の連続。
世界どころか、日本のベルトさえどうかな?という、自堕落なタレントボクサー三昧生活。果ては昨年、「クールビズ」のモデルにまでなっての、さもしい荒稼ぎ。
肝心の試合の視聴率も、知名度も、1試合ごとに、もっか下がり続けている。
一方の、清水聡(さとし)。成松と同じ、自衛隊体育学校所属勤務。朝霞自衛隊基地の中にあり、いわば「仕事」は、ボクシングの練習。それに専念し、国家公務員に準じる給与がもらえる。
良い環境と言えば、これほどない、恵まれた環境。
だが・・・・・・そこを飛び出し、民間企業の「ミキハウス」に所属。会社の広告塔の一員となって、給与をもらって、ボクシングに専念。
どうやら、銅以上のメダルを狙って、今度の「リオ五輪」にも連続出場を!と考えていた。
そして、出場枠を狙って、階級をひとつ上げて、成松のいるライト級に挑戦。
今年1月に開かれた「国内選考会」。互いに、見知った仲。勝負は、接戦に持ち込まれた。
まだ2ラウンドであったが、このラウンドで選考のための試合は中止。
試合は、両者負傷判定で引き分けみたいになり・・・・・。
その後の選考会議で、成松がリオへの出場権が与えられ、清水は万が一、成松がケガなどで欠場せざるを得なくなった場合の「補欠」扱いに。
その差は、「紙一重だった」という
報道でそのとき目にしたのは、清水が五輪に出られなくなったということ。相手の名前などは、報じられないほどの小さく、短い扱い。
だから、その時、へ~、清水より、このクラスで強いボクサーがいるんだ、と驚いたくらい。まさか、その勝者扱いされたのが、この成松大介だとは、知るよしも無かった。
その後も、成松大介の「成」すら目にせず、耳にせず。
むしろ、リオ五輪への道を閉ざされた、すでに30歳になった清水聡の行方に、マスコミの関心が向けられていた。
7月5日。清水は、大橋ジム入りを表明。ここからプロの道を歩み始める。
4年前と周囲の事情は、まるで違う。争奪戦も、熱い勧誘も聞いていない。支度金や契約金も、一時金も無いはず。
ミキハウスのような潤沢な給与は今後、もらえない。夕方までアルバイトに明け暮れ、ゼロからのスタートになる。ただ、マッチメイク能力は抜群にあるジムなので、階段昇りは早いであろう。
密室での選考会議の結果という疑問が残るが、五輪に出られないと決まってからの、苦渋の末の遅咲きの決断。成松の存在によって、決断させられた。
にしても・・・・・プロボクシングでさえ、世間の認知度、浸透度が低いのに、ましてやアマチュア。このリオ五輪に、もうひとり、バンタム級で選ばれ、リオ五輪に行く選手がいたことは、この記事を打つにあたって、私でさえ初めて知った。
本日、成松の所属している「自衛隊体育学校」の、「渉外広報班」に問い合わせた。
---結構、こまめにスポーツマンのドキュメンタリー番組はチェックしているつもりなんですが、成松選手を単独で追い続けた取材番組は、1本も観たこと無いんですが、有りましたか?
「いえ。1本もありません」
---取材を手控えていらっしゃる?
「いえいえ。申し込みが今まで1本も無いんですよ」
そりゃあなあ・・・・・・・。誰も知らないのも、知られていないのも、無理はない。もっとも、4年前だって、メダルを2人が獲ったから大きく報じられたわけで、無冠だったら、だ~れも振りむかん!
日本一になったからといって、アジア・オセアニア地区予選で3位以内を勝ち取らなければ、リオには出られない。
3月末、成松は中国にわたり、60キログラム級決定戦に出場。ヘッドギアは無し。
宿敵ともいえる、タイのオトコン・ダライに敗け、成松は4月2日。3位決定戦にまわった。
相手は、中国のシャン・ジュン。
動画映像を見ても、もはや完全アウエー。すざまじい相手への応援と、大歓声。
見事、3-0の、正しいジャッジを得た。
「やったあ! オリンピックだあ!!」
そう、成松は、リング上で叫んでいた。
「実は・・・」と、試合後、告白。
ひじ、手首、腰、清水との激闘で切った目尻など、満身創痍のケガだらけ。痛みだらけだったと言う。
「この試合に負けたら、正直、引退するつもりで、臨みました。いや、プロに行く気はありません。アマチュアでの引退を覚悟してました」
現在は、二等陸尉。二等陸曹と、位を低く書いてあったものも、ネット上に氾濫していたが、間違い。
だが、例え、リオでメダルを獲っても、昇格、昇給無し。報奨金が出るわけでは無いそうな。
メディアにまったくと言い切っていいほど取り上げられない、リオ五輪出場の「ボクシング選手」。
彼はまだ独身、基地内の、寮暮らし。
その両腕の筋肉の付き具合たるや、体操の内村航平並みだ。
ちなみに、五輪に自衛隊体育学校から出場する選手は、9人もいるというのに、目下のトコロ、注目度ゼロ。
先に、熊本市出身と書いた。
4月14日、凱旋帰郷のつもりで訪ねたら、大地震に彼自身がみまわれた。続く16日の本震も体験。
実家のフトンにくるまって寝るどころの騒ぎでなく、しばらく避難所と、車中生活の日々。
両親と祖父に別れを告げて、帰京したという。
リオに渡る前には、この7月28日。日本ボクシング連盟のワンマン会長が主導して、選手2人が東京で23日から31日まで合宿中にも関わらず、その合間をわざわざ割いて、遠方である広島のホテルで、会費なんと1万円をとっての「壮行会」が開かれるという。
試合の皮切りだけは、すでに決まっている。
日本時間、8月5日の開会式のあと、6日、成松にとっての1回戦のゴングが鳴る!
なにかと不正と疑惑だらけのジャッジが横行する五輪ボクシング界。相手は、抽選により、現地で決まるそうな。
メダルを獲らなきゃ、タダのヒトで帰国の運命。
さあ、どうなるか!?
少なくとも、成松大介という名前とこの顔だけは、記憶の片隅に残しておいてください。